第2話 世界改変系スキル
僕はただひたすらに逃走、いや、闘争した。
キラーアイアンを殴り飛ばしてからも、なんとかなると思ったわけではない。だが、視界に入ってくるモンスターを殴り飛ばしまくり、それからダンジョンを脱出した。
「はあ、はあ、はあ……」
なんでか知らないけど、東京第49ダンジョンの入り口にあるギルドまで戻ってくることができた。どうやらまだ生きているらしい。スキルは確認できなかったけどもどうやら戦えるようだ。
そんなことより
「疲れたぁ……」
安心したせいか、どっと全身に疲労感が襲ってきて思わずその場に座り込んでしまった。現代っ子でもスマホを確認する気力すら湧かない。
もう一歩も動けない。
「大丈夫ですか?」
「すみません」
「いえ、無事戻って来られて何よりです。おや、たしか、今日探索を始められた方ですよね?」
「はい。そうですけど」
どうして知っているのだろうと思ったが、心配そうに話しかけてきてくれたのは、僕の受付をしてくれたお姉さんだった。名前はたしか
普段から受付をしているのに、人の顔を覚えていたらしい。すごいな……、って、いや、それはおかしい!
「あの!」
「はい?」
突然立ち上がった僕に、明尾さんは少しだけいぶかしむような目を向けつつも、真面目そうな顔のまま僕の目をまっすぐに見つめてきた。
そんな明尾さんは嘘をついているようには見えない。
だが、明尾さんが僕の顔を見たはずはないのだ。だって、僕の肉体は変わっているのだから。
「あの、僕のこの体、おかしいんですよ。多分、スキルのせいだと思うんですけど、体が変わっちゃって。たしか以前にもありましたよね。男性の探索者が女の子になった事例が」
「えっと……」
かなり確信を持って話したのだが、僕の質問に明尾さんは困ったように固まってしまった。
僕の記憶違い、ではなかったはずだ。それに、有名な探索者だから、ギルドの受付である明尾さんが知らないとも思えない。
「なるほど。そういうことですか」
少し間はあったものの、明尾さんはようやく納得したようにうなずいて真面目な顔のまま僕のことを見てきた。
よかった。どうやら思い出してくれたみたいだ。
「そうなんですよ。だから」
「騙されませんよ。丸木さんは初めから女の子だったじゃないですか。なんですか? そういう冗談ですか? 生きて帰ってきて安心したんですよね」
「…………」
明尾さん、今なんて言った……?
僕が元から女の子だったって?
初めから今の姿だったてことか?
「どうしたんですか? そんな、鳩が豆鉄砲を食らったみたいな顔して。そんなに自信があったんですか? 受付の記憶力をなめないでくださいよ」
「すみません」
いや待て。反射的に謝ってしまったがそんなわけがあるか。僕は男だ。正真正銘、男、だった……。胸にふくらみがあることがおかしいし、いつの間にかスカートなのがおかしいんだ。今の今までその違和感の正体に気づけなかったけど、僕は元は男だったはずなんだ。
ならあれか? 僕は女の子になったけど、過去の事例と違って、元から女の子だったことになっている……?
つまり、世界を改変できるようなレベルのスキルだってことか……? 規模はすごいよな。あたりか?
いやいや、なんだよそれ。僕の記憶には男だった時のものしかないんだぞ? そんなものでどうしろと?
「あの。本当に大丈夫ですか? そこまでショックを受けなくても」
「いえ、違うんです。ショックは別のところで受けてて。その。すいません!」
「あ、丸木さん! まだお話しすることが」
僕はダンジョンどころか、ギルドすらも飛び出した。
キラーアイアンがどうなったとか、初日の探索を終えて探索の反省をするべきとか、本来ならやるべきことが色々とあるけど、今はそんなことを言っていられない。
どういうわけか、今の僕は女の子なんだ。
意識してしまえば、いつもと違うスカートの感触。スースーとした風が肌を撫でる感覚で頭がおかしくなりそうだ。
だが、ここで足を止めるわけにはいかない。最悪、誰も僕のことを覚えていなくとも、あいつだけならこの状況をなんとか説明してくれるかもしれない。
奇人、変人、悪友であり、探索者殺しなんて呼ばれる僕の友。
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