目覚めたスキルで元から女の子だったことになりましたが魔力量は人より多いそうなので魔法生成AIを使って地道にダンジョンに潜ろうと思います〜え?すでに最強?僕を持ち上げても何もありませんよ?〜

川野マグロ(マグローK)

第1話 探索者、そして、女の子になった日

あきら無理しなくていいからね」


 家族はいつもそう言ってくれる。だが、頑張ってと言われたことはない。


 優秀な兄を持つ僕、丸木まるきあきらは、放任主義の親によって特に不自由なく育ててもらっている。おかげで中二心をくすぐるダンジョン探索者なんてものを目指していても小言を言われることさえなかった。ただ、いまだにうさんくさがられる探索者を目指していても、「やめとけ」とも、ましてや「なれる人が少ないけど頑張れ」とも、どちらも声をかけてもらったことはない。

「行ってきます」と言わずに家を出るようになったのはいつからだろう。


「ま、いいんだけどね」


 この世界にはダンジョンがある。僕はすでに探索者だ。


 いつからあるのか詳しく知らないし、ずっと昔からあったという人もいるが、いずれにしろ、日常生活とは切り離された超常の世界。日常の隣にある異常の世界。それがこの世界のダンジョンの理解だ。

 探索者の資格を得て、ダンジョンへ挑戦することで、スキルと呼ばれる特殊な能力を身につけることができる。これだけを目当てに年に何百万人もの人が受験し、そのうち数%が合格する。年によってばらつきはあるらしいが、10%を超えたことはないらしい。それでも、スキルのためだけにダンジョン探索者を目指す人は後を絶たない。

 その合格率も以前よりは上がったらしいが、身の回りに資格を持っている知り合いは僕以外に一人しかいないことを思うと、あくまで昔より多くなった程度なのだと思う。


「あれ……?」


 ふと変な感じがした。探索を始めてたった数分。なんだか気分がいつもと違う。


 実のところ、これが僕の初探索なのだが、何かが違うのだ。

 聞いていた話と違うというわけではなく、うまく言えないのだけど違和感がある。

 これがスキルに覚醒するということなのかもしれないけれど、分かる範囲では体から力が溢れてくるようなことはない。純粋に筋肉痛にでもなったときのような体のぎこちなさを感じるだけだ。


「おかしいな。もう少しパワーアップ! みたいなことらしいんだけど……」


 そう考えると聞いていた話と違うってことになるのかもしれないな。まあ、そんな違いなんて小さいことかもしれないけど……。


「っぶな!」


 油断しているところに風船のようなモンスターが噛みつきかかってきた。

 反射的に殴り飛ばして倒せたところを見ると弱いモンスターだったみたいだ。あまり力を入れたわけでもないのに倒せてしまった……。やっぱり強くなってるのかな?


 いや、初探索で調子に乗るのは危険だ。

 主観での判断より先に、スキルに覚醒したならばやることがある。

 そう、ステータス確認だ。


「ステータス」


 ステータススキルは最も基本的なスキルの1つで、自分のスキルを閲覧することができる便利なスキル。探索者として、自分が覚醒したスキルを把握することは初歩中の初歩。なんだけど……。


「あれ……出ない……? ステータス。ステータス!」


 何度言ってもステータスが出ない。キョロキョロと周りを探しても、ステータス画面は出てきていない。姿勢を変え、声音を変え、ありとあらゆる手段でステータスと言ってみたが、なにも変わらなかった……。


 まさかのステータスが出ない……。


 どうやら僕はステータススキルを持っていないらしい。これは稀に見るハズレってやつかもしれない。

 たしかにくじ運はいつも悪かった。というよりも、生まれたときから僕のくじはハズレだった。

 放任主義と言えば聞こえはいい。こうして無茶な目標も、叶える応援こそしてくれなかったが、お金は親として出してくれていた。ただ、期待されずに努力をしても虚しいだけだった。


 親は比較してこなくとも、周りは勝手に僕を兄と比較する。


「どこはお兄さんより劣っているわね」

「ここはこの子のほうがマシじゃない?」

「あそこならまだなんとかなる」


そして決まっていうのだ。


「まあでも弟だし」

「いずれお兄さんみたいになるんでしょうね」


 誰も彼も、どいつもこいつも、僕ではなく兄と比べた僕の立ち位置を見ていた。

 そんな兄は、世間の評価なんか気にせず、一人、探索者すら興味がないみたいに、ズンズン勉学で成果を出し、わかりやすく周りにもてはやされていた。だから兄は世間話のかっこうの的だった。


「今さら言っても仕方ないのにな」


 できない自分を自覚すると、つい思考がそれてしまう。

 いかんいかん。こんな自分を変えたくて探索者になったのに。


「ん?」


 その時、ふっと何かが見えた気がした。


 カンモンと呼ばれる層ごとの区切りがあるせいで、今のダンジョンは実力者しか先に進めない仕様だ。だから、探索初心者の僕には、東京第49ダンジョン第一地区くらいしか挑戦権がなかった。いわゆるGランクのダンジョンだ。ギガみたいなモンじゃない。S、A、Bと並べていって最低位のダンジョンだ。


 そう最低位。いわばみんなが攻略法を知っているレベルのダンジョンだ。だから、おかしなものなんて見るはずがなかった。事前情報でほとんど全ての情報が網羅されているはずだった。


 カチャカチャ。ガシャガシャ。謎の駆動音を響かせつつ、視界の端を通り過ぎていったのは銀色に光る体をもったロボットのような何か。


「まさか、キラーアイアン……? いや、そんなはず……」


 見た目こそ似ているが、そんなものそう見られるものではない。それは上層にも現れるレアモンスターであり、凶悪なモンスターでもある、キラーアイアンそっくりだった。


 耳をすませば、必死に逃げているような人の足音。それを追いかける機械音。


「…………ひぃっ」

「……待っ…………」


 そして、かすかに聞こえる人の声。


「い、行くのか……? 僕が……?」


 これまでの僕は人の力になれなかった。だからダンジョン探索者を目指した。

 兄が興味を示さなかった。だからダンジョン探索者を目指した。

 あこがれのテンコさんみたく、魔法を使ってダンジョンを攻略し、人を助けられるような人になりたかった。だからダンジョン探索者を目指した。


 今はただのあこがれじゃない。僕だって探索者じゃないか。

 スキルは確かにわからないけど、どうせ見つかったら最後なんだ。今動けば助けを待つくらいの時間稼ぎにはなるかもしれない。

 ここで行かないで何がダンジョン探索者か。

 胸に手を当てて深呼吸したとき、その感触に再び違和感。


 触れた胸が自分のものとは思えない柔らかさだった。


 反射的に見下ろすと、いつもより胸が視界に占める割合が大きいように思う。

 それだけじゃない。自分の手も気持ちいつもより小さい気がする。


 なんだこれ。何が起こってるんだ? 混乱で感覚がおかしくなってるのか?

 待て。落ち着け。恐慌状態はダンジョンの敵だぞ。いや、でも……。


「うわああああ!」


 混乱の末。気づいたら僕は走り出していた。それも、ダンジョンの出口へ、ではなく、さっき見たモンスターの方向へ。


 当然、叫びながらの接近は耳がない機械みたいなモンスター、キラーアイアン相手でも接近を知らせてしまう行為。

 僕の接近に気づくと、キラーアイアンは腰付近の稼働部を回し、上半身はくるっとこちら向きになるように回転させると、膝をガチャガチャ言わせながら僕の方へと走ってきた。


「いや、上層がなんぼのもんじゃい!」


 僕はそんなキラーアイアンをわけもわからず殴り飛ばした。


「え、なに? 新手のモンスター?」

「いや、違うみたいだぞ。なんか吹っ飛んだ」

「吹っ飛んだってなんスカね?」

「もしかして一撃で倒したってことなの?」


 僕は人の声を聞き流しながらただひたすらにその場から逃走した。

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