第39話 魔法少女……?
ドレスみたいなものを急に着せられ(?)、かわいいと言われ、顔が真っ赤になっていくのがわかる。さっきの素っ頓狂な一発芸はコンパクトのどこに仕込んであったんだ? 早着替えなんてレベルじゃなかったよな。
しかし、意識はすぐに切り替えなくては、ふざけた格好をしているがここはダンジョンだ。命のやり取りをする場所。さっき明尾さんに言われたよね?
「もう、帰ろうかな……」
『待つんだよ』
:待て待て待て!
:まだ配信始まったばかりだよ!
:今のが何かもわかってないし!
:帰らないでぇ!
:これからだよね?
『待たないと探索者殺し博士からお叱りを受けるのだよ』
「じょ、冗談ですよ、冗談」
まあ、今度こそ何の成果も得られずに帰ったら、無神原に一生この服装で生活させられそうなので、おとなしく探索を再開する。こんな、権力に屈する人間にはなりたくなかった。
でもマジでなんだよこれ。動くたびいろんなところが揺れてて、かなりバランス取りづらいんですけど。
「あ、モンスターですね。倒します」
『もっと魔法少女らしくするのだよ』
「なんだよ、魔法少女らしくって」
:指導されてるw
:声音がガチで草
:AI、ようやくサポーター感出てきたか?
:使い方じゃなくて立ち回りが気に食わないと
:でも、かわいいキラースクリーマーちゃんが見たいな
「はああああ」
羞恥心を人質に取るとか人としてやっちゃダメなことだと思うんですよね。
チラッとカメラ付きドローンを見るが、無情にも僕の姿を映し出しているだけだ。僕のこの魔法少女(?)らしい格好をした醜態をさらしてくれている。もう、どうにでもなれ。
僕は息を吐き切ってから、カメラをしっかり見据えて、モンスターを指差した。
「あそこにモンスターさんがいるので戦っていきまーす☆」
コメントも見ない、全ての感覚をモンスターと体に集中する。地面を思いっきり蹴って一気に距離を詰めてから杖を振った。
特になに起こらなかった。
仕方なく、ひよこのようなモンスターを殴……、パンチした。
「ピェエエエエ」
モンスターが悲鳴のようなものを漏らしながら思いっきり吹っ飛んでいった。
僕の勝ち。
僕は再び追いついてきたカメラを見据えてウィンクした。
「これが魔法の力だよ☆」
;いや完全に物理だったよね?
:殴ってたような……
:モンスター吹っ飛びすぎでは?
:なにを、したんだ……?
:でも動きが速すぎでよく見えなかったぞ?
どうやらうまく見えてなかったらしい。いかな無神原の発明と言えど、カメラでは映し出せる映像に限界があるらしい。
それなら仕方ない。見えなかったものは仕方ない。
「これは魔法です☆」
腕を前にしながら僕は宣言した。
:いやそれはパワー自慢
:やっぱり魔法(物理)
:キラーアイアンにやってたやつでは?
:これまではそこそこ魔法使ってたのに……
:ここにきて原点回帰w
『その通りなのだよ。キラーアイアンに対して使ったものの調整版なのだよ』
無神原が宣言しやがった。これじゃ、魔法少女じゃなくて魔力少女じゃねぇか。
魔力を消費している感覚はあったので、僕がそこまで魔力の配分に集中せずとも身体能力強化系スキルばりに攻撃、防御、双方の面でサポートしてくれているのだと思う。
しかしそうなると、僕の予想は大方当たりだったわけだ。魔力による武術で戦うってことかよ。心得はほぼないぞ。
まあいいや。
「あそこにもモンスターさんがいるので倒していきますね☆」
ここで張り切らなくてはどこで張り切るというのだろう。無神原に元の服を返してもらうためにも、頑張ったという事実を作り出さなくては。
そのために、この発明がモンスターに対して有効だということを世界に示す必要がある。
「えーい☆」
「ピャアアアアアア!」
またしても、インコのようなモンスターは悲鳴のような声を漏らしながら吹っ飛んでいった。
:いや、かわいく言っても物理
:みんなこれ見えてるの?
:最初と最後しか見えないwww
:やばすぎw
:キラースクリーマーちゃんのやることだから理解度高くて草
どうにもカメラ映りが悪いらしく、戦闘シーンがうまく伝わっていないようだ。そのせいかコメントの反応も困惑が多い印象。
どうしたものか……。
「ぽかぽかできますよ。このコンパクトはとてもおすすめです。何よりコンパクトですからね」
:いや、ぽかぽかって怖いわ……
:一撃で倒せてるのでは?
:タコ殴りはオーバーキルすぎる
:やりすぎだよぉ
:そこまでやらなくても
「あれ?」
コンパクトをコンパクトって言ったところに、ダジャレじゃねぇか、みたいなツッコミがなさそうだ。
わかりにくかったか? なんでか困惑が怯えに変わっているみたいだけど……。
「いや、すごいのは今回もこの探索者殺し博士の発明の方ですからね? 伝わってます? 大丈夫ですよね?」
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