第38話 魔法少女!

 初、Fランクダンジョン。

 こいつはテンション上がるなぁ。この僕でも自撮りしてしまうかもしれない。


『鼻歌なんか歌ったりして。陽気だねぇ』

「ん!?」


 急に無神原の声が聞こえてきて、ピクリと動きを止めてしまう。だが、キョロキョロと辺りを見回してみても無神原の姿はない。あいつ、一体いつからスキル無効と発明以外のスキルを手にして、ダンジョンに自ら潜るようになったんだ?


『何してるのさ。いつもみたいにツッコんでくれよ』

「お前の方こそどこにいるんだよ。僕は別にツッコミ担当じゃないからツッコミ待ちされても困るぞ」

『いつもの通りだよ』


 若干だが音声の乱れを確認。

 どうやらスピーカーによる音声だったらしい。無神原から借りた試作品の中にも通信機能は備え付けてあるみたいだ。


「これさ。お前が発明を売りつけたヤツの情報を勝手に収集してたりしない?」

『ノーコメントで』

「それ絶対してるじゃないか。大丈夫なのか?」

『大丈夫だよ。その辺も同意の上だから』


 なんかうまいこと勘違いさせて同意させてそうな気がするんだが……。まあ、今のところ無神原が訴えられたという話は聞かないので、きっと僕以外で無神原の発明を使っているのはよっぽどの狂信者なのだろう。

 しかし、僕は一度もそんな契約に同意した覚えはないんだが……。

 まあ、無神原の言葉にいちいち噛みついていても始まらないか。


「それで? 今回の発明はどうやって使うんだ? ちょっとこれは使い方わからないぞ?」


 今回渡されたのはコンパクトと木の棒だが、今のところうんともすんともいう様子がない。


『それは配信が始まってからのお楽しみさ』

「やけにもったいぶるな」

『ここでバラしちゃつまらないからね』


 ダンジョンにいるのに道具の使い方もまともに分からないなんて、どうかしてるだろうに。

 ただ、こういう時はさっさと準備するに限る。慣れた手つきで操作は完了。


「こんにちはー。聞こえてますかー」


:聞こえてまーす

:なんかのんびりしてるな

:ちょっと慣れてきたっぽいな

:あれ、ダンジョンの内装が違う?

:本当だ。違うダンジョンかな。装備も違う?


「はいどうも。キラー……スクリーマーデス……。えっと、今日は今までとは別のダンジョンに来てまーす。装備も違いまーす」


:別の名前思いつかなかったんだな

:キラースクリーマーでいいと思うけどなぁ

:キラースクリーマー以外考えられない

:まあそういう時期だと思えば

:登録者110万人おめでとう!


 察されてるというのは不覚だが、しかし、顔に出るタイプなので仕方ない。


「って、110万人? 本当だ。なんかありがとうございます」


:うおおお。100万人突破おめでとおおおお!

:バカバカ増えてるな

:まだまだ始まったばかり

:キラースクリーマーという名が世界中に轟いてるね

:キラースクリーマーちゃんー


「この名前で知られるのかぁ」


 いよいよ引っ込みがつかなくなってきているし、前回の配信でもそうだが、もう手遅れな気がする。


『さて、そんなめでたい時に私からキラースクリーマーちゃんにプレゼントがあるのだよ』


:AIだああああ!

:110万ってキリ悪いけど

:100万人記念見たかったなぁ

:細かいことはいいんだよ

:めでたいもんね!

:なんだなんだ?


 無神原の煽りでコメントがにわかに活気づいてきた。僕としてはこれ以上何かあるのかと思うと嫌になるが、はてさてなんだろう。


「ようやくキャラを安定させてくれるのか?」

『違うのだよ。私から送るプレゼントは、もうキラースクリーマーちゃんの手の中にあるのだよ。あとは使ってもらうだけなのだよ』

「なのだよ多いな、って、これのこと? 素直に話してくれるのか」


 コンパクトと木の棒を指差すと、『その通りなのだよ』と声が聞こえてきた。本当、なのだよばっかりだな、今回は。


「それで? 使うってどうやるのさ」

『それは簡単だよ。コンパクトを両手で持って前に突き出し』

「両手で持って前に突き出し?」

『変身』

「『変身』? うぉっ、まぶしっ」


 テンポ感悪く言われるがまま口にだすと、突然、コンパクトから光が放たれた。


「うおおおお……、どこだここ。異空間?」


 気づくと全く知らない場所に移動していて妙な浮遊感がある。

 ダンジョンとは違うさまざまな魔法のピクトグラムのようなものが映し出されている。


「って、何これ! 服、服が!」


 周りの風景に見とれていたら、服が脱げた! 体が謎の光に覆われてるんだけど、なにこれ。

 と思ったら、なんか急に見たことのあるような装備が体の周りに出現した。


「装備出た!」


 あっという間に目まぐるしく、くるくると視界が回ってしまい、クラクラする。


『最後は、世界を救う響く叫び声、キラースクリーマー!』

「最後は、世界を救う響く叫び声、キラースクリーマー……?」


 なんでか体がポーズを取ってカメラに向かって止まっていた。

 パチパチという音がしそうなほど、まばたきをしてしまう。


「いや、なんだこれ」

『さながら、魔法少女キラースクリーマーってところかな』

「なにが、さながら、だよ」


 一連の流れでダンジョンに着てきたはずの装備は紛失していて、いつの間にか昨日までの探索に使っていたような装備とそっくりの装備を身につけていた。スカートがやたらと膨らんでいて、形状を保つためか、謎の層ができていることを除いたらおそらく同じ装備だと思う。

 あと、頭が重い。なんか変なのが乗っている気がする。


「木の棒は、そのままなんかい!」


 コンパクトが服と合体してアクセサリーみたいになっているだけに、ちょっと気持ちキラキラした飾りがついているくらいの変化しかしていないように見える。木の棒だけは肩透かしを食らった気分だ。まあ、これならDXではなかったわけか。知らんけど。


:かわいいいいいいい!

:なんだそれなんだそれ!

:かわいい女の子がかわいいカッコしてるだけで最高ですわ

:キラースクリーマーちゃんってそういう縛りもあったの?

:これは探索者殺し(社会)って感じか?


「いや、そんなかわいいとかじゃ……」


:かわいいかわいい

:かわいいよぉキラースクリーマーちゃん

:はぁはぁ

:こっち見て! かわいいお顔を見せて!

:何着ても似合うなぁ。これ、オシャレ配信?


「やめてください。ここダンジョンですから。ダンジョン探索配信ですから!」

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