第46話 結局ゆん

 東京第52ダンジョン、第二カンモンのボスも突破する事ができた。

 無神原のせいでさすがに嫌な汗をかかされたれので、探索はここで引き上げたいところだ。

 ソロ探索者の弱点も見えてきた事だし、一度無神原にはガツンと言ってやらないといけない気がする。


「それじゃあ、第二カンモンも突破したので」

「おおい! 苦戦しろぉ! 助けに入れないじゃんかぁ! 落とさせろ!」


 どこからかちょこまかとついてきていた邪魔が、とうとう口を挟んできた。

 終わりの挨拶に割って入り、食ってかかってきたのは、誰あろう因縁の波川さんだ。


「波川さん? どうしてこんなところに?」

「どうしてもこうしてもないでしょ。ゆんが前回のまま終わりにするはずがないんだもの」

「いやでも」

「こうなったらダンジョンの外で、探索以外の事でゆんが落とすから。ゆんの女にするから!」

「あのですね」

「わかった?」


 全く僕に話させてくれない。やはり、無神原とは違った意味で厄介な人間だ。

 またとんでもないものに目をつけられてしまったらしい。前回も今回も僕から絡んでいった訳でもないのに、この展開はあんまりだろう。


「ほら、ユンと一緒に来る」


 僕の手を掴んでくる波川さんの手をかわす。


「なんでかわすの!」

「行く理由がないので」

「あるでしょ!


 動きが緩慢なので波川さんの手をかわすことは造作もなかった。

 が、場の雰囲気が変わったのを感じ取り、僕は周囲に意識を向けた。


「ほーら、やっぱりゆんがいいんでしょ? こうして捕まってくれるんだから」


 何か満足げな波川さんの背後に突如として骸骨が現れ、意気揚々と飛びかかってきた。


「危ない!」

「へ?」


 全く気づいていないらしい波川さんを抱きかかえてそのまま一気に距離を取る。

 すんでのところで回避できたようで、骸骨は地面に激突するとガラガラッと音を立ててその体をバラバラにした。

 が、すぐに組み立てられたように元の骸骨姿に戻ってしまった。


「なんだあれ。ボスは倒したはずだよな」

「なんで? 倒し損ねたの? 何してるの?」


 僕の肩を掴んでぶんぶんと体をゆすってくる波川さん。

 本当にやめてほしい。抱えたままでそれをやられると危ないし、頭が揺れて考えるどころじゃない。


「あの、波川さん」

「ゆん」

「なみか」

「ゆ、ん!」


 そして、非常時でも名前の呼ばれ方は譲らないらしい。

 本当にどうにかしてほしい。


「ゆんさん」

「まあ、いいか。何?」

「あなた僕より高ランクですよね? なんなんですか? いつも」

「そうだけど、それがどうしたの?」

「ここFランクですよ? 高ランクなら、経験でどうにかしてもらえませんかね?」

「嫌。だって、友だちと上げたんだもん。友だちに上げてもらったんだもん」


 僕の腕の中から動こうとせず頬を膨らませて言ってきた。

 かわいくねぇ。


「でも、それならそれで、相応の実力があるはずですよね」

「ランクが高い時はいっつも友だちとダンジョンに行ってるから」

「にしても」

「ゆんは守られてるだけ。バレてるから言うけど、ゆんが守るのは1回目だけ」

「なるほど」


 役立たずじゃねぇか。

 前回も結局、文字通りの腰巾着みたいになって何もしてくれなかったが、今回も何かするつもりはないみたいだ。ようやく降りてくれたかと思うと、数が増え出した骸骨に対して僕を盾にして隠れてしまった。


「どうにかしてぇ。ゆんを守ってぇ。さっきまでの尊大な態度は謝るから、ゆんをいい子いい子してくれるお姉さんになってぇ」

「そこまで欲望を赤裸々に語らなくていいですよ」


 多分僕、波川さんより年下だし。こんな頼りないお姉さんは嫌だ。

 それに、僕にはすでに妹がいる。

 ただまあ、ここで骸骨を倒さないときっとカンモンを突破できない。乗り気じゃないがまた助けておこう。


「いいですか」

「なんでもしますからぁ。舐めますぅ。靴でも舐めますぅ。耳でもいいですからぁ」

「舐めなくていいです。やめてください。本当にやめてくださいね!」

「じゃあどうすればぁ」

「ただ、今回もじっとしていてください。いいですか。僕から離れてじっとしていてください」

「いやぁ、温もりは感じさせて。肌と肌を触れ合わせて。そのやわかい体でゆんを包んで」

「き、気持ち悪い! ちょっと、離れてくださ、なんでここだけ力強いんですか!」


 グダグダしているせいで鈍い動きの骸骨たちは僕らとの距離を詰めてきている。波川さんはまたしても僕から離れるつもりはないらしい。


「あーもう! 巻き込まれても知りませんからね」


 前回は命の恩人だと勘違いしていたから威力を抑えて使ったが、今回はもうどうにでもなれ。


「『浄化の熱波』!」


 僕は、僕を中心にカンモン全体へ向けて浄化を熱風として放った。炎の魔法と浄化の魔法の合わせ技。全てを浄化していくのも、殴り飛ばすのも、手間と判断しての即興の技だったが思ったように魔法を使うことができた。

 そのうえ、効果覿面。周囲にいた骸骨たちは灰となって崩れていった。


「ほら、終わりましたから。さすがに離れてください」

「…………ぽっ」

「あの。聞こえてます? おーい、おーい」


 呼んでも、目の前で手を振っても波川さんの返事がない。


「骸骨がいたからって、ただの屍にでもなったんですか?」

「ち、違うから! 別に助けられたとか、それで惚れたとか、そんなんじゃないんだからね!」


 波川さんは変なセリフを言って逃げて行った。

 本当、なんだったんだあの人。

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