第41話 ずる賢いペンギン
関門を突破したが、今回の無神原の発明があまり響いていない気がする事に納得がいかない。
今のところ、魔法生成AIの方がよほど視聴者に伝わる発明だったんじゃないかと思う。
そもそもの話、どうして僕はこんなに無神原の発明を宣伝する事に対して躍起になっていたんだっけ?
我に返り自分の姿を見下ろしてみて思い出す。そうだ、今の僕は女の子になり、仮装というかコスプレみたいな格好をさせられていたのだ。
改めてこの格好、もう少しどうにかならないものだろうか。
この広がってるスカートとか、絶対探索に不向きだろう。もっと安全なところで着るものだって……。
ただ、今の僕にはどうしようもないことだ。
なので、僕は服装の事は考えないようにしつつ、東京第52ダンジョン第二区画の探索を継続することにした。
こうなったらとことんまで、だろう。しかし、僕はどれだけの感情を捨ててここまで来たのか……。
:キラースクリーマーちゃん気をつけて
:カンモンから出たらイレギュラーだったからな
:また何か踏んだのでは?
:今のところ、今回は大丈夫そうってこと?
:ひとまずドローンは無事とw
「やめてください」
ドローンの話をしている人は、波川さんのことを言っているのだろう。カンモンを出たらドローンが吹っ飛ばされて、その後なんやかんやあって波川さんがやって来たから。
しかし、そんな事は起きなさそうだ。
それと、区画を超えて警戒するよう言われているのかと思ったけども、そういえば、前回、Gランクのダンジョンにて第一カンモンを突破した後にもイレギュラーがあったのだった。倒してはいけない方のカンモンボスを倒したせいで、第二区画へと移動後、巨大なゴブリンと戦うハメになった件だ。
僕の引きは基本的に悪いので警戒してしすぎる事はない。
壁伝いに移動しながら、こっそりと先をのぞいてみたり、小石を投げてみたりしながら慎重に進んでみる。問題ない。
しばらく継続してみても、それらしい異物のようなモンスターの存在は確認できなかった。
ほっと一安心、胸を撫で下ろす。
「大丈夫そうですね。いやぁ、よかったよかった」
字路の中心に出ていつもの探索行動に戻る。
まあ、ダンジョンの中だからモンスターへの警戒は必要ということに依然として変わりはないが、イレギュラー的な遭遇の可能性は低くなったのではなかろうか。
なんて歩き出したところで、ヒュンと風の切る音とともに、透明な何かが僕の左側を通り抜けた。
「冷たっ」
反射的にかわしたつもりだったが、見えないところからの攻撃だったせいで、少しだけかすってしまったらしい。ビームのようなものが通過した様子の地面と僕の腕が凍っている。
「いやぁ、こんな時、魔法生成AIも使えると便利なのにな」
『搭載されているのだよ』
「マジで?」
『マジなのだよ』
ということで、詠唱しない程度の魔法発動を試してみる。ここまでコンパクトによるインパクトで身体能力しか活用してこなかったが、果たして……。
とか思っていたが普通に使えた。どうやら今回出てきた装備と一体化しているらしく、左腕の凍った箇所が徐々に溶けていく。
「本当だ。すごい。こちらなんと魔法生成AIも使えるんですよ!」
『遠くを燃やしてついでに溶かすと思ったが、そうするのだね』
:なんか魔力の消費がヤバそう
:カイロいらずってこと?
:今のってどう考えても最弱レベルの威力では?
:新しいものを使いこなしてるって……
:博士の想像を斜め上で使ってるのか……
「そんな危ない事はしませんとも」
だって今日はかわいくしないと怒られるからね……、無神原、僕が男だってこと忘れてない? 大丈夫だよな?
気を取り直して、ビームが放たれた方向を注意しつつ見てみる。攻撃されたってことはモンスターがいるってことだろうからな。
それに、身体能力強化は何も肉体の動きだけではない。目に魔力を込める事で、より多くの事を、より正確に見る事ができる。
「ペンギン、か?」
『ペンギン? どこなのだい?』
無神原に確認できないってことは、多分カメラの方もまだ見つけていないって事だろう。
どこにいるのか説明してもいいが、遠くからビームを打つようなペンギンだ。気づいた事がバレたらまたどこかへ姿を隠してしまうかもしれない。
「僕が捕まえて見せよう」
今までは魔法による接触感だけで探知していたが、この視力ならより正確にモンスターの位置が把握できる。
陸上、短距離走、いわゆるクラウチングスタートの構えを取ってから、僕は一気に走り出した。強化された身体能力で距離が一気に詰まっていく。
僕の接近に気づいて、予想通り、ペンギンは慌てた様子であたふたと逃げ出した。
「遅い」
ただ、こちらの方が先に気づいている。逃げ出すペンギンの真正面に回り込む。するとペンギンは僕に激突して尻餅をついた。
まるで寒いかのようにガクガクと震えている。
「ほら、この通りペンギンですよ」
:怯えてますけど
:かわいい……
:モンスターなのに……
:モンスターが逃げる理由がわかったな……
:まだこのダンジョンではキラースクリーマーちゃんは知られていないだけか
「ええい、僕はモンスターじゃない。逃げられてないって。それと、よくも腕を凍らせてくれたな!」
僕はひょいっとペンギンを持ち上げてからタコ殴りにした。
これがせめてものモンスターに対する礼だ。
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