第34話 女子校へGO!

 ただでさえ学校へ行くことが億劫なのに、皐月ちゃんと同じ学校に同じ時間に登校ですって。姉妹で同じ学校ってのは、ほほえましいと思ったこともあったけど、それが我が身に降りかかるとは思わないじゃないですか。


 昨日の一件で散々ひどい目にあって全く知らない皐月ちゃんと一緒だったせいか、とても家に帰って寝たとは思えないほど体に疲れが残っている。皐月ちゃんの反応からすると目にクマはできていないのだろうが、些細な違いだ。


 ということで今は制服。それも女子校のものを着ている。はっきりさせておきたいことがあるとすれば、僕には女装癖はないということだ。この世界になってから女物の服しか着ていない気がするが僕はこんなヤツじゃなかった。今着ているものもワンピースタイプの真っ白なもので、全然僕の着る服ではない。

 あと、なんか知らないけど、探索時の装備の方がスカートが短かったはずなのに、あっちの方が安心感がある。

 なんだろう。悪いことをしている気がする。けど、どうしようもないんですね。


 じゃあ次。


「皐月ちゃん。これは?」

「どれ?」


 僕の言葉にキョロキョロと辺りを見回す皐月ちゃん。仕草はかわいいけれど、おかしなことをしている自覚はないらしい。

 そんなベッタベタの仲良し兄妹じゃないんだから、腕に抱きつかれると気まずいんですけど……。

 そりゃね。嬉しいよ? 嬉しいけどさ。昨日ずーっとくっついてて、今もずーっとくっつかれるとさ。何かあるって思っちゃうじゃん。


「もー。そんなに見られたら恥ずかしいよ。わたしのことが恋しかったの?」

「う、うん」

「お姉ちゃん、好き!」


 ほっぺを妹からこすりつけてくることなんて10年前に1度しかなかったろうに、こんな形で叶うとは。女になってよかったかもしれん。


 じゃない。ズレてるズレてるって。


 女兄弟って怖いです。やっぱり何かあるんだろうな。皐月ちゃん、もっとデレデレじゃなくってツンケンしてたじゃん。お互いもう幼稚園児でもないのに。

 ただ、もしかしたらこれが正常っぽいせいで、僕の方からはやめてほしいとは言いにくいのが現状だ。


「間を空けたからって。ここまでするの?」

「するの。お姉ちゃんなんだかおとなしくなった? 配信でのキャラはやっぱり作ってたんだよね」

「いや、あれは……」

「あ、そうだ。ねえ、今日は一緒にお買い物行こうよ。見たいものがあるんだ」

「それは、ちょっと、時間が」

「ええー! お姉ちゃんお買い物一緒に行ってくれないの……」


 そんなつぶらな瞳で見つめられたら断れない。

 胸が痛い。グイグイ押されて痛いわけじゃなく、心理的に痛い。

 なんだ? これは僕の妹なのか?

 やっぱり探索者やめようかな。


 ……いいや。ダメだ。この世界の方針に囚われてはいけない。


「無神原と約束があるから」

「また無神原さんと? もうずっとなんでしょ?」

「ごめんね。また今度一緒に行こう?」

「明日! 明日ね!」

「明日はわからないけど」

「うぅ。明日ぁ」


 口をとがらせつまらなそうに小石を蹴った。

 そんなあからさまに拗ねなくても。

 それに。そんな腕に力を入れなくても僕は逃げないよ……。




 と、朝から姉離れできてない妹の相手をしながらやってきたのは、私立咲良木さくらぎ女学園。エスカレーター式の学校で、都内でも随一の名門校。男子禁制の選ばれし者のみがその中に入ることを許される特区。

 みたいなことが調べたらネットで出てきた。


 うちは僕の知る限り一般家庭であり、そして、僕は探索者なこと以外一般人なのでこんなところと関わり合いになることはないはずなのだけど、兄と妹のせいで生徒ということになっている。

 当然周りは女子ばかり。


「お優雅ですわ」

「その口調、お姉ちゃんの中でブームなの?」

「違いますわ」


 どうやらこの世界の僕はこの口調ではないらしい。お嬢様はなかったのか。

 しかし、お優雅なのは本当だ。ごきげんようなんて、お嬢様かぶれしたヤツが言ってそうな挨拶がそこかしこから聞こえてくる。

 なんかいちゃいけない場所に足を踏み入れた感じがある。


 死にそうですわ……。


 僕が周囲に圧倒されてとほほと歩いているところでも、皐月ちゃんは我が意を得たりみたいな得意げな顔でずっと腕に抱きついている。

 すでに高等部棟へとやってきているのに、中等部へ向かう様子は見えない。


「皐月ちゃん? こっちじゃないよ?」

「ちぇー。いつもはもっと早くに言うから今日は一緒に行っていいのかと思ったのに」

「いいわけないでしょ。お友だちが待ってるよ」

「はーい。またね。お姉ちゃん」

「またね」


 あからさまに不満そうな顔をしつつもやっとのことで腕から離れると、皐月ちゃんは目をつぶった。

 なんだろう。キスか? 姉妹でキスするのか? この学校にはそんな風習があるのか?

 いや、ないない。ただなんとなく、居心地悪くなって頭を撫でておいた。


「えへへ。それじゃ!」


 皐月ちゃんは満足そうに笑って手を振りながら走っていった。

 やばい。やっぱり皐月ちゃんかわいい。甘えんぼモードの時の皐月ちゃんみたいで最高だったな。

 いつもならいくらするんだろうなぁ……。

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