第33話 妹ちゃんと遭遇

 僕は無神原の家を飛び出した。


 アイツにとって僕はただの便利なヤツだった、都合のいい男(女?)だったということなんだ。悔しいが、それが現実。

 とか思ったけど、いつものことなので別にそれでどうこう思ったわけじゃない。こんなことでイキリ立っていたら身体が保たない。


 ということで我が家へ数日ぶりに帰ってきた。

 数日家に帰らないというのは無神原と知り合ってから度々あることなので僕としては慣れっこなのだけれど、今回は探索者になったり、探索したりしてて帰ってくるまでが長かった気がする。

 そのせいで家の中に入りにくい。


 もうすでに玄関前に立ち尽くし始めてから10分以上が経過していた。さっきから通行人の方々に変な目で見られている。

 今の僕の行動が変だということはわかっている。だが、入りにくい。

 いかんせん妹からの連絡を無視してきただけに何事もなく家に帰るのは帰りたくとも難しい。


「アンビバレンス。まさしくジレンマだ」


 まあ、少し意味わからない風にカッコつけてみたが、僕が悪い。本当に未読スルーはよくないと思う。

 本日何度目になるかわからない深呼吸。ドアノブに触れたり離したりして、静電気に弱すぎる人みたいになっているが、一度もバチバチしていない。

 これも魔法生成AIのおかげか? なんて思いつつ、もう一度ノブに触れようとした時、カチャリとドアが開いた。


「やべっ」


 父が出てくると思い、隠れる場所を探すが、そんなものはない。手頃に隠れられる場所など我が家の玄関付近には存在していない。


「もうダメだ」


 父かと思って身構えたが、中から出てきたのは心配そうな顔をした妹だった。

 姿形は僕の知っている妹で表情だけがいつもの勝ち気な妹とは大きく違うところだった。


「や、やあ」


 必死になって笑みを浮かべて手を振ってみると、皐月さつきちゃんはギョッとなって目を見開いた後、嬉しそうに僕のもとまで駆けてきた。

 おいおい。そんな顔はもう10年近く見たことないぞ。


「お姉ちゃん、今の今までどこ行ってたの? 体調は? 怪我してない? 心は無事?」

「どこって無神原の家だけど……」


 いつものように答えてしまったが、それで皐月ちゃんは不安そうな顔に戻ってしまった。

 なに? 墓穴を掘ったか?


「その口調どうしたの?」

「あ、いや、えっと……気のせいざます」


 そういえば僕は僕だが他人だった。

 というのも、考えたくないから避けてきたことだが、今の僕は女の子だったことになっている。見かけだけでなく、存在が元からそうという処理らしい。

 目を泳がせ必死に言い訳を考える。

 考える考える。


「ふ、ふふっ」


 真剣に考えているのに声が漏れる。なんだかやけにくすぐったい。

 そしてなぜか羽交い締めにされていた。

 いやなぜ。


「皐月ちゃん? なにしてるの?」

「ハウス」


 特に理由を答えることなく皐月ちゃんに家に連れ込まれる。

 そのまま皐月ちゃんの部屋の連れ込まれる。

 そして、気づくと正座させられていた。


 これまでなら中をチラ見しようものなら目潰しをくらったものだが、敷居をまたぐことを許してくれたらしい。


「まず! どうして連絡返してくれなかったの! そもそも見てくれないし! いつもはもっと返信早いじゃん!」

「そ、そうでございますか?」


 どう話すのが正解なのかわからず気持ち悪い口調になってしまい、キッと僕の見慣れた皐月ちゃんの表情でにらまれた。

 自然、背筋が伸びてしまう。


「次に、なんでわたしの許可なくネットに顔さらして活動してるの! お姉ちゃんのことみんなに知れちゃうじゃん!」

「それは、ワタクシの勝手と申しますか」

「家族に断り入れるでしょ!」

「……それは、たしかに……?」


 いやしかし、僕が活動してることなんて、皐月ちゃんがどうして気にしてるんだ? 今の僕と皐月ちゃんはどういう関係だったんだ?


「最後! 本当に探索者になっちゃうとは思わないじゃん! お姉ちゃんも女の子なんだから無茶しないの! 連日の探索は体に悪いでしょ!」

「返す言葉もないです……」


 探索者でもなんでもない妹に探索者としての在り方まで怒られてしまった。

 いやでも、その通りです。こっちは話を通しておくべきでした。


「すいません。反省します」

「すでにしていろ!」

「ごめんなさい。これからするので許して下さい」


 ボコボコぬいぐるみを投げられるのも甘んじて受け入れる。

 痛くはないけど心が痛いです。心が無事じゃないです。久しぶりに対面で話したと思ったらこれは痛いです。

 マジで泣きそう……。


 力なくしょげていたところを皐月ちゃんにそっとハグされた。



「許す」


 急転直下の対応変化に理解が追いつかない。


「皐月ちゃん?」

「お姉ちゃんが無事でよかった。それだけがずっと気がかりだったから」

「皐月ちゃん。ごめんね」

「いつものお姉ちゃんでよかった」


 僕は普段こんならしい。その、いつものお姉ちゃんじゃないので本当はそっちが申し訳ないです。

 誰ですか皐月ちゃんのお姉ちゃんって、君には兄しかいないはずでは?


 ただ、今のお叱りも心配からの行動だと思えば嬉しいものだ。そもそも、皐月ちゃんは何をしてもかわいいのだ。

 他の何より優先してしまうから自重していたが、今度からは他の何より優先することにしよう。


「でも帰ってきてくれたってことは今日からは一緒にお風呂に入れるってことだよね」

「……ん?」


 なに言ってるのこの子。満面の笑みで僕の肩をがっちりホールドしてるけど、なに言ってるのかな?

 やっぱり怖い! どういう感情の笑顔なの!

 何をしてたんだこの世界の僕は!

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