第35話 どうやら友だちだったらしい

 おそろしい思考を外へ追いやりつつ、高等部へと足を踏み入れた。

 僕はこれで私立咲良木女学園高等部への第一歩を踏み出してしまったわけだ。まあ、望む望まないに関わらず、僕がダンジョンへ足を踏み入れた瞬間からこの学校の生徒だったことになっているわけだけど……。

 いずれにしろ、これからは定期的のここに生徒として通うわけだ。精神、保つかなぁ。どう考えてもご褒美とかじゃないだろ。居場所がないもん。


 よくよく考えなくとも、周りの女の子たちと同じ制服を着た男が学校に侵入してるって背徳的以上に疎外感が強いんだよな。やっぱり心細いは。どうして無神原来なかったんだよ。


 意識したつもりはないけど、昨日のことが思い出されると、なんだか胸の辺りがムカムカするような怒りがふつふつと熱くたまってくるような感じがある。

 これはもう無断欠席ということで学校から面倒な連絡を入れてもらおう。


「あっきーおは。昨日はよかったね! ほんと羨ましいよ」


 決意を胸に廊下を歩いていたら見覚えのない女子に話しかけられてしまった。ここまでお優雅に会釈だけで済ませてきたというのに、なぜ今僕に話しかける。


「ご、ごきげんよう」

「……え?」


 見知らぬ顔にあいさつされたので、周りの見よう見まねであいさつをしてみた。結果、なんだか幽霊でも見たみたいな顔をされてしまった。

 え、なに、もうずっとミスってない僕。


「どしたのあっきー。あたしだよあたし、親谷おやたに伊近いちかだよ。ウチらそんなのもうずっとやってないじゃん。あれ? 探索とかって礼節重んじる感じなの?」

「いや、あはは。そうなんだよねー」

「なるほどね。久しぶりにあきらちゃんからされて驚いちゃったよ。そのクセが出たのね。それじゃあたしもごきげんよう」


 雑な感じで返されてしまった。が、この感じだと多分元から親しい子なのだろう。

 僕からすると、学校から違うので、まったく知らない人なのだが、この世界では人間関係ができているらしい。記憶がよみがえるようなこともない。

 デコを出した根明な感じのギャルっぽい子だ。ちょっと浮いてる気もするけど……、これは類は友を呼んだ結果なのだろうか……。


「そ、それで、よかったねって?」

「とぼけなくてもいーし。ゆん様に会えてたでしょ。配信見たよ!」

「あ、あぁ……」


 思い出したくもない昨日のこと。親谷さんは僕が家に帰るのが遅くなった原因たる波川さんのことを言っているらしい。


「会ったよ、会った。見ててくれたんだ」

「ずっと探索者を目指してるって言ってたじゃん。一番にチャンネル登録したから。ゼロだったからね。絶対あたしが一番」

「ありがとう」

「でも、いーなー。あっきー探索者なったらすぐゆん様に口説かれるんだもんね。友だちが口説かれたとか、もうみんなに自慢しまくりだよ」

「やめてよ」

「いーじゃん」


 バシバシ叩かれてるけど、親谷さんなぜか自分のことのように嬉しそうにしてるのはわかる。軽いノリだが波川さんのファンということは事実なんだろうな。

 それと、ここまでの会話では僕が浪川さんを好きと公言していたかは微妙にわからないな。好きって言ってたらかなり面倒だぞ。


 ただ、親谷さんが浪川さんに好意的なのは、僕が聞いていた波川さんの情報と被らないだけにちょっと信じがたい。うーん。でも、夢を壊すわけにもいかないし、この話はこれくらいにしておくか。僕の口がすべらない内に切り上げて学校での立ち位置を確認しよう。

 しかし、無神原もテンコさんについてはこんな感じだったのかな。


「ってか、チャンアイは?」


 ちゃんあいって誰だ……、アイちゃんか? ってことは無神原か。


「無神原? 無神原はサボりだよ。大事なことやってるから」

「あきらちゃんってチャンアイと好きあってるの? なんかいっつも一緒だよね」


 おっと。これはどう答えた方がいい質問だ?

 普段から来る来ないがわかってるから、聞かれてるってだけか? それとも、もっと親密なのか? わからないが、あの無神原がまともに学校で目撃されてるとも思えないよな。

 ただ、それがどんな仲だったのかまではわからない。しかも女子同士だしな。ノリかもしれん。知らんけど。


「お好きなように解釈してくれたら」

「え、やっぱりそうなの! 仲良いもんね!」

「あはは。そうでもないよ」

「否定しないもんね。へー。へー」


 それはどういう反応なん? 合ってたのか? 合ってたから嬉しそうなのか? それともやっぱりミスったのか?

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