第20話 改良とランクアップ

 いつも思うが、無神原はなんだかんだいいベッドで寝ていると思う。いつ寝ているかは知らないが、睡眠に気を遣ってはいるらしい。まあ、いつどこでも寝られるようにとあっちこっちにベッドがあるのはどうかと思うが、そのおかげで僕が寝る場所にも困らない。


 と、そんなことより魔法生成AIだ。

 早く新しい魔法が使いたすぎて夜しか眠れず、気づいたら朝になってしまっていた。


「でもワンチャンアイツ起きてないんだよな」


 昨日は幸いなことに無神原は起きていて魔法生成AIを渡してくれたからいいが、今日はどうかわからない。


「あいつ寝起き悪いからな。僕が起こすことになるのは絶対に嫌なんだよな」


 それに、あいつが僕を起こしてくれることは泊まり込みになっても今まで一度も経験がない。つまり、あいつの朝を信用してはいけない。


「……無神原ぁ。起きてるかぁ?」

「起きてるよ。なんだいその態度は、君の見た目に引っ張られているのかい?」

「それどういう意味だよ。この体に引っ張られてないわ」


 まあ、色々と肉体的な変化で不便は感じちゃいるが、それでも女の子っぽく振る舞いたいことはないし、そんなことも考えていない。


「ならいいんだが、それならそれで、まあいいか」

「言いたいことがあるならはっきり言えよ」

「私としては、君のその男らしさに乗っかっておきたくてね。いざとなれば脱ぐんだろ?」

「それ別に男らしさでもないだろ」


 いや、昨日僕が言ったのか。ってことは、なんだか変なことをさせようとしているな?

 何かを隠そうとしている雰囲気がプンプンしている。改良が間に合わなかったか?


「改良は済んだからつけてみてほしい」

「なんだよ。魔法生成AIできてるんじゃないか。どれ、使わせてくれ」

「ほいさ」


 折りたたまれた布を渡されるも、昨日のスカーフより大きさがありそうだ。


「これ、どうやってつけるんだ?」

「広げればわかるさ」

「広げる?」


 ばっと広げてみると、スクール水着みたいな形状。いわゆるレオタードみたいな状態になっているらしかった。ご丁寧にも今の僕のサイズとピッタリ合っているらしい。


「おい。これはどういうことだよ」

「言っていただろう? できる限り肌と密着させ、ダメージを受けないほうがいいと」

「言ったか?」

「言ったね。結果、たどり着いた形状さ。君がそれを着て、その上に防具をまとえば、今まで以上の防御力に加えて、今までにない魔力使用効率と性能を引き出せる」


 無神原的としては素晴らしい発明なのだろう。だが、僕は男だ。スカートの装備を無抵抗に着ていたのは、あくまでスキルの影響で今の僕が女の子ということが世界的に書きかわっていたからだ。自覚した今では、仕方ないがと諦めているが、今回の所業は、無神原が僕を男と覚えていながらの仕打ち。


「おい。やってくれたな」

「まあ着ればわかるさ。その性能の虜になるぞ。さあさあ!」






「そうだ丸木」


 無神原のアトリエを出てすぐ、めずらしく無神原が話しかけてきた。


「なんだよ」

「君は配信に送られていたスカウト、どうするつもりなんだい?」


 無神原にしては歯切れの悪い言い方だ。


「どうするって?」

「いや、つまりは、だ。スカウトを受けてどこかに所属するのかっていう」

「しないよ。お前どうせどこにも所属してないだろ? それに、どこにも所属しないんだろ?」

「まあね」

「なら一応、お前との約束が先だし、お前が嫌なら、他のヤツとは組まずにお前と協力してやってくよ。必要なら協力を要請するくらいがいいんだろ?」

「ああ。それが聞ければ十分さ。いってらっしゃい」

「いってきます」


 めずらしく見送られ、俺も無神原に手を振り返す。こんなことも今までなかった気がするが、なんだろう。変な無神原だな。






 場所を移して、僕はギルドにやってきた。

 当然、探索をするためだ。ただ、今日は昨日より憂鬱だ。魔法生成AIはスカーフ状のがよかったのになぁ。


「おはようございます丸木さん。今日もお早いんですね」


 この人もこの人で休みがあるのかわからないけれど、明尾さんが話しかけてきてくれた。


「おはようございます明尾さん。いや、ここまで近いもので」

「顔色がすぐれないようですが、どうかされましたか?」

「え、そうですかね?」

「はい。なんだか落ち着かない様子ですし」


 そんなに態度に出ていただろうか。気をつけているつもりでも、やはり細かなところまで見えている明尾さんみたいな人には気づかれてしまうらしい。

 ただ、正直に話すわけにもいかないんだよなぁ、これが。


「いえ、なんでもないんです。本当に」

「ならいいんですが、連日の探索ですし無理はしないでくださいね」

「もちろんです。明尾さんも体調と付き合う人には気をつけてください」

「はい。ありがとうございます」


 不思議そうに首をかしげられたが、心配されてしまうのも仕方ないかもしれない。

 ぴっちりと張り付く感じがどうしても落ち着かない。今までの男だった時にはありえないような体のカバーされ具合に、服をいじったりキョロキョロしたりと落ち着かない。

 白状するなら、僕は魔法生成AIをつけてきた。あの禁断に手を出してしまった。

 魔法が使えるという触れ込みには逆らえなかったよ……。


「あ、そうです。丸木さんにはお伝えしたいことがあるんでした」

「お伝えしたいこと?」


 なんだろう。昨日の配信についてかな? それとも誰かからの伝言とかだろうか。

 悪名高きキラースクリーマーたる僕だから、何を言われても驚く自信がある。


「丸木さんおめでとうございます。まずはFランクへの昇格が確定しました」

「Fランク……? Fランク! 昇格できるんですか?」

「はい! もっとあげてもいいと思いますが、他の探索者に示しをつけるためにもとかなんとかで一つずつのランクアップになってしまいそうです」

「いや、明尾さんが気にすることじゃないですよ。ありがとうございます!」


 どういうわけかランクアップだ。やったぞ。

 これでGランク探索者から、哲はFランク探索者へとランクが上がった。駆け出し探索者の道を進み始めた!

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