第9話 配信開始!
明尾さんには軽く昨日の探索について説明した。
実際、僕の記憶がはっきりしているところは少しだし、なんでも配信の様子が詳しいらしいので、僕から説明することはあまりなかった印象だ。
ざっくり言えば、叫びながらレアモンスターぶっ飛ばしたヤバいヤツ。
これが、今の僕のギルドや他の探索者、僕を配信で知った人たちの評価らしい。
やっぱり記憶のすり替えを早めに実行する必要がありそうだ。
というわけで、ようやくダンジョンまでやって来られた。昨日と違ってここまでで結構な時間を使った気がする。
それでも、ただ疲れただけではない。配信をしていた探索者の方々がミクルメクミラクルという有名な女性探索者パーティだとわかったのは収穫だ。これで、誰に知られればいいかわかったわけだし。
「さて、配信はどうやるんだっけ?」
『おいおい。チャンネル主がそんなだと困るなぁ』
僕の独り言に反応する謎の通信。今回も無神原は通信システムをつけてきたらしい。
「そうは言うけどさ。無神原だって、色んな人に絡まれてるのに、ここまで何の助力もしてくれなかったじゃないか」
『おや、他力本願かい?』
「僕だって色々と大変だったんだよ。ギルドからダンジョンに入るまでにも人に揉まれまくったの、聞こえてたろ? 街中はギリギリごまかせても、実際にもぐってたダンジョンじゃそうはいかないんだよ」
『はいはい。言い訳はいいから』
「おい。だから聞いてただろうよ! 帰ったらお前に魔法を撃ってやろうか?」
『構わないよ? 私にスキルは効かないから。それとも実演しないとわからないかな?』
そうだった。そして、そんな無神原だから魔法生成AIを開発できたとかそういう話だった。
スキルに覚醒した以上、物理攻撃も効かないし……、ああ。いつも以上にニヤニヤしている無神原の顔が目に浮かぶ!
もう、配信の準備しよ。
「ん? 10万人? なんか別のチャンネルでログインしちゃったのかな? やたら登録者数が多いんだけど」
『チャンネル名だけで登録した人がいたんだろうね』
「ミーハーな人もいるもんだなぁ」
『そうでもないさ。今や世界中の話題を席巻している君のチャンネルだ。偽物かもしれなくても、何か動きがないか探している連中はごまんといる』
「へー」
とはいえ、有名だというのなら、その有名さを有効利用させてもらう他にないだろう。僕の当分の目的としては、ミクルメクミラクルの人たちに僕の存在を正しく認識してもらうことだ。できることなら早急に連絡を取って、目の前を通り過ぎたらしい僕の記憶を上書きせねば。
当然、ダンジョンを攻略することや今の僕が世界にどんな風に認識されているか知ることも大切だし、そっちの上書きもいずれしないといけないが、全ては一気にできない。まずはコツコツ一つずつ、だ。
『うわあああ!』
「おい。僕の切り抜かれた動画を流すな」
『そんなに怒らなくてもいいだろ? 私のアトリエを出る前に一緒に見たじゃないか』
「怒ってない。それに、アレはあくまで現状把握のためだ」
これ以上からかわれる前にさっさと配信を始めてしまおう。
しかし、人前での立ち回りはなんだかんだ飄々とした無神原のほうが慣れている。
……これで、無神原がついてるから多少安心ってのが気に障るが、こればっかりは仕方ない。
「えーっと? これ、始まってるのかな?」
:お、始まった
:素人みたいで草
:キラースクリーマーさん。初コメです
:これって本人?
:売名目的の配信乱立してるからなぁ
:一応登録しておいたけど、画質荒かったからわっかんねぇ
「うぉっ!」
内容はバラバラだが、勢いよくコメントが流れていっている。配信をしたことなんてないからわからないが、これは配信者としてすごいことなのか?
まあでも、誰も配信を見てくれない可能性もあったわけだしよしとするか。
これで無神原の劇場型嘘という線はなくなったと……。
:本物のキラースクリーマーちゃんですか?
:これは本物じゃない?
:もしもーし、見えてますかー?
:俺の同一人物判定スキルによれば同一人物みたいだな
:ここにきて同一人物判定スキルとかいう現代のAIの劣化がイキってて草
:しかもそれ、スキル使ってる本人しかわからんのよ
「えっと、キラースクリーマーって呼ばれることは不服ですけど、キラースクリーマーって呼ばれてる探索者で合ってます。チャンネルもその名前ですよね」
配信での勝手がわからないけれど、コメントに答えつつ自分のことを言えればいいのかな?
「まあ本名出すのもアレなので、キラースクリーマーです。探索者してます。よろしくお願いします」
:うおおおおお! 本物だああああ!
:他の配信でもそう言うヤツいるけど
:不服とか言ってると本人感あるなw
:表情からめちゃくちゃ嫌ってのが伝わってくるwww
後手に回ったと思っていたが、どうやら信じてもらえたようだ。
そう考えていいよな? だよな?
「僕がキラースクリーマー本人ってことでいいですかね?」
:本人がそれ聞いちゃうの?
:自覚してないんか
:聞かれても本当かどうかはわからないのよ
:だから合ってるって
;あ、キラーアイアン
「え……」
コメントを見て反射的に数歩走ってしまった。が、何も音は聞こえないし姿も見えない。キラーアイアンはいない。そう会えるレアモンスターじゃないし、どうやら乗せられたらしい。
:フォームが配信のそれw
:たしかにwww
:フォームで本人認定おもろいなw
:まあ、装備が同じだから本人なんだろう
:市販品じゃないっぽくって見つかってないらしいもんな
:どこの装備使ってるんですか?
「どこの装備? これは一応友だちに作ってもらってるので売ってないですね」
コメントの内容からすると、おおむね信じてもらえたようだ。すでに僕の装備や探索者の活動としての質問が多くなっていて、僕がキラースクリーマーということが前提になってきている。
この名前、自分で使っておいてなんだけど、どうにかならないのか?
:その装備を作っている人は有名なんですか?
「装備を作っている人は有名か……?」
『当然だろう? 私は有名だとも』
「落ち着け」
:今のなに……
:誰かと通話つないでるのかよ
:ってかどっかで聞いたことある声じゃないか?
「ああ。えっと、多分知ってる人は知ってると思いますよ。探索者殺しとか言われてるヤツですから」
:探索者殺し!
:また有名なの出たな
:ヤベー名前だけど誰だ?
:めっちゃ金とって装備作ってる発明家だよ
:発明家なのに探索者殺し?
:金取るからな。金銭的な探索者殺しよ
:全身装備を作ってもらったとなったら学生の線はないな
:じゃあロリババアか
「誰がロリババアだ。ロリでもババアでもないわ」
全く失礼な。女ですらないわ。今は女だけども!
:気にしてて草
:てか待って。もう同接1万超えてない?
:初配信で1万!?
:いや、注目度的に少ないほうだろ
:まだまだ偽物が跋扈してるからしゃーない
:同接1万人おめでとうございます!
「ありがとうございます?」
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