第25話 カンモン突破!

 ネームプレートという表現が正しかったのかはわからないが、じゃっかん凍っている表札のような石板を拭うとやはり、トール・ゴブリンと書かれているようだった。これが第一カンモンに違いない。目標はすぐそこだ。


「ささ、みなさん。カンモンに到着しましたー!」


:いや、そんな散歩みたくカンモンに到着されても……

:緊張感がないよな

:これ雑談配信だっけ?

:ダンジョン探索配信だよな

:頭痛くなってきた


 すいすい移動してきたせいで、画面酔いさせてしまったのか、コメントの流れが悪くなっている気がする。

 うーむ。配信素人が出てるな、切り替え切り替え。


「疲れている人が多いようなのでいったん休憩にしましょうか。カメラワークの追尾が悪かったですかね」

『そんなことはないよ。おかしな動きはなかったもん』

「だから何キャラなんだよ」


 キャラを探り探り演じるのはいいが、少しくらい安定させてほしい。


 しかし、こんなところで無神原が嘘をつくとは思えないし、僕だってカメラの位置は素人なりに気にかけていたつもりだ。僕が意識していた限り、そこまでバカみたいにビュンビュン画面を回していたつもりもない。


:探索中の配信者が視聴者の心配をするかよ

:いや、画面酔いじゃない

:無自覚でこれをやってるってことよな

:数分の移動でカンモンにたどり着いたこともそうだけど、床がずっと凍ってたのよね

:モンスターらしき何かもいくつか凍ってたし、全部トドメ刺したんじゃね?


「全部倒すほどじゃないですよ。ランクが上がったからって変なこと言わないでくださいって」


 たしかに、ちょっと凍ってる範囲は広かったかもしれないけれど、全てのモンスターを凍らせたってほどじゃないだろう。

 相変わらず持ち上げられてるなぁ。自分で天狗にならないよう気をつけなくては。


「ただ、お見せしたとおり、今回の魔法生成AIは広い範囲に魔法が使えるよう、魔力を魔法に変換する効率が高まり、加えて魔法の威力も向上している、らしいです!」


:説得力www

:伝聞だけど見りゃわかる

:魔法使ってるのになんか生き生きしてるもんね

:これで一般人も魔法が?

:そいつぁすごいぜ!


『残念ながら元々の求めるスペックは多少しか下がっていないそうなので魔力がない人は使えないみたいですよ』


:AIィ!

:もっと頑張れよ

:まだ見てるだけか

:いつになったら馳せ参じられるんだ

:やめとけ叫んで凍らされるぞw


「大丈夫な人が多いみたいなので、それじゃあモンスターのいる部屋に入っていきますね。失礼しまーす」


 コメントの流れが戻ってきたのを確認してから、そっとカンモンの扉を開ける。

 ボス部屋同様、区画とカンモンは扉で区切られていて入らない限りは害を与えられることはない、とされている。


:そんな感じで入るところじゃないのよ

:人ん家か

:カンモンでも抜き足だし

:カンモンのモンスターはさすがに逃げないと思うよ

:いや、モンスターいなくね? まだ湧いてないのか?


「え」


 いや、逃げてないよね。逃げられないよね。

 そんな不戦勝みたいな形で次の区画へ行けても魔法生成AIがまともに試せていないので嬉しくもなんともないのだが。


「いや、居た」


 部屋の暗がりのせいで気づくのに時間がかかったが、当のモンスターはすぐそこにいた。ゴブリンと言うが決して矮躯ではなく、身の丈3メートルは下らない巨男が僕に覆い被さるような姿勢で見下ろしていた。

 部族のような服装に緑の肌はたしかにトール・ゴブリンで間違いないだろう。明尾さんのプチ情報とも一致しているはずだ。

 棍棒として背丈と同じほどの長さの武器を持っているのはちょっとヤバそうだけど、オーラとかは感じない。モンスターはモンスターなんだな。


:カンモンのモンスターって他の配信で見た感じだと、もっと立ちはだかるように待ってたんだけど……

:すでに怯えてる……?

:キラースクリーマーちゃん、殺気を押さえて

:ゴブリンの顔が狩られる側の顔してるんだよなぁ

:ゴブリンさん、同情します


「コメントおかしくないですか? ここはせめて応援でしょう」


 今までずっと好意的なコメントが多かっただけに、なぜかモンスターに対する同情に動揺してしまう。

 なに? どういうイベント、これ。


「初めてのカンモンなんですから、アドバイスとかないんですか?」


:そもそもカンモンってパーティで挑むものなんよな

:カンモンソロ攻略って上層でも初?

:いないことはないけどもっとランク上だろ

:キラースクリーマーちゃんみたいな探索初心者(?)じゃいないわな

:でも、どうして1人で挑んでるだろ


 核心を突くような発言に言葉が詰まる。

 いや、そもそも口は達者なほうではないが、とはいえ自分でも顔がひきつったのがわかる。


「……な、仲間がいないので…………」


:顔が変だと思ったけど……

:あっ

:まあ、ね

:ん? でも今までの情報的に一緒に探索できるレベルって……

:嘘つけ! 魔法生成AIの効果範囲で全部巻き込むだけだろ!


「ぼ、僕だって傷つくんだよー!」


 怒りに任せて放った無詠唱の氷がゴブリンの体を氷漬けにし、直後、その巨体は粉々に砕け散った。

 カンモンが私のために開いてくれた。

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