第22話 選べるダンジョン事情
「それで、本日はどうされますか? ランクが上がって、ここ以外のダンジョンでも探索する選択肢が広がったかと思いますが、今日はここ、東京第49ダンジョンにしますか?」
「そうなんですよね。急なことで全く思いついてないんですけど……、どうしましょう」
改めてどこを探索するか聞かれると迷ってしまう。
選択肢が多い中で選ぶことは苦手だが、探索することは確定だ。魔法生成AIに実装されたという新しい魔法も試したいし、何より早く、ここよりも人が密集していない場所に避難したい。
ただ、ランクが上がったことで上のダンジョンに挑みたい気持ちも多少はある。なんか色々と問題はあるけれど、ここまで来たら、もう乗りかかった船だろう。それなら、ダンジョン攻略に本腰を入れて取り組みたい。
挑めるダンジョンとしては、自分のランク以下のダンジョンと1つ上のランクのダンジョンまで。今の僕はFランク。つまり、Eランクダンジョンまで挑戦できるようになっている。
「FランクのダンジョンもEランクのダンジョンもここからだと少し遠いですよね」
「そうですね。事前にお伝えできていればまた違ったのでしょうが、ここからだとちょっと時間がかかりますね。一日探索しようとしていたのであれば数時間のロスになってしまうかなと」
そこまでガッツリ探索しようとはしていないけれど、ダンジョンを探索していると気づいたら時間が過ぎているのもまた事実。
とはいえ、残念ながら転移魔法は魔法生成AIのほうにまだ実装されていない。
ただ、転移魔法というと便利そうに聞こえるが、仮にステータススキルなどで所持が確認できても、魔力量との兼ね合いから使えない場合もあるらしい。テンコさんの崇拝する探索者の人が言っていたと、配信でテンコさんが言っていた。
とにかく、使えるかどうかは別としても、僕の魔力量は多いらしいから、転移魔法の早期の実装が望まれるところだ。
「私としては丸木さんがこの東京第49ダンジョンに来てくださって嬉しいですけど、もうここの難易度ではもの足りませんか?」
「いえいえ、全然そういうわけではないんですよ……、多分」
苦戦はしていないけれど、もの足りないというわけではない。そもそも、苦戦するようなダンジョンに潜るのは自殺するようなものなので、今くらいのレベル感が大事だと思う。
それに、無神原に渡された魔法生成AIを試運転するには、いきなりランクの高いダンジョンへ挑むよりも、何回か来たことのあるダンジョンを攻略していくほうがいいだろう。
ということで今日の方針は決まりだ。
「今日はここで探索しようと思います」
「わかりました」
「ちなみにおすすめのFランクダンジョンってありますか?」
「そうですねぇ」
少し考えるようにしてから、明尾さんは手元にあるパソコンのようなものでカタカタと何かを調べ出した。
「この東京第49ダンジョンが低ランクで元々短期に攻略されそうであったこともありますが、丸木さんの注目で探索者が集まり、もう少しで深層ボスまで攻略されそうなので、早いところ移れるといいですよね」
「そうだったんですか? なら余計に他のところが気になりますね」
「うーん。近場ですと、最近できた東京第52ダンジョンなんかが近いですね。ランクも今のところはFランクと認定されていますから、ステップを踏むという意味ではおすすめです。無論、Eランクをお探しでしたらそちらもご紹介できますが」
「いえ、そちらにします」
このおすすめのダンジョンを聞くやり取り、ちょっと探索者っぽいことなんじゃないか?
ただ、明尾さんがこの簡易ギルドに出張っているとなると、次のダンジョン前に設置されているギルドにいるかどうかわはわからないんだよな。
ここが攻略されないと明尾さんが移動することもないだろうし。
思えば短い間だったけど、色々とお世話になったな。
「明尾さんもありがとうございます」
「いえいえ。これが仕事ですから。情報は後でまとめたものをお送りしますね」
「はい。え、そんなこともできるんですか?」
「ギルドですから」
胸を張って言う明尾さん。真面目そうな雰囲気ながらコミカルだ。
こんな一面を見ると、少しずつ打ち解けてきた気がするだけに他のダンジョンへと攻略対象を移すのはちょっとさみしい。
でも、出会いと別れが探索者の必定。
それにやっぱり、ギルドは悪意のある組織ではなさそうだな。
しかし、明尾さんは早いと言っていたけれど、東京第49ダンジョンもGランクのダンジョンにしては攻略されるまでが長かった気がする。
元は人が集まっていなかったのかもしれないが、さっさと実力者に見つかって潰されていたら、こんなに探索できなかっただろう。
「……いや、僕が潜る前に攻略されていれば僕がこんな目にも遭わなかったのか」
まあ、今となってはどっちがいいとは言えないな。……言えないか?
そこのところは置いておくとして、攻略されてなかった理由としては、多分、中層以降のランクがGより少し高かったんじゃないだろうか。
キラーアイアンもランク分類ではほとんどの探索者が敵わないAランクらしいし、レアとはいえ、そんなモンスターが出るくらいのダンジョンだ。イレギュラーの件数も多かったのだろう。
「あの。ちなみに一つ質問してもいいですか?」
「はい。なんでもどうぞ。受付として、探索者の方とは親しくありたいですから」
真面目そうながらかなり親身になってくれる明尾さんだ。多少変なことを聞いても問題はないだろう。
例えば容姿の話とか。
「僕の見かけ、変じゃないですか?」
「変、ですか?」
じっと目を凝らして僕の体を色々な方向から見る明尾さん。
僕の言葉を聞いただけでは特別気づいた様子はなく、うーんと唸って腕を組んでしまった。
「変ですかね? 何が変かわからないのですが 以前話していた男性だったと言うお話ですか?」
「いやそれとはまた違うんですけど……、そうですか。明尾さんが言うなら大丈夫だと思います。変な質問に答えてくださりありがとうございます」
「いえいえ。気になったことがあればいつでもお力になりますので、なんなりとおっしゃってください」
自分の体感で違和感があっても他の人は気づいていないとわかり、少し気持ちが軽くなった。
スキップとはいかないが、軽い足取りで僕はダンジョンへと潜る。
「……見ぃつけたぁ」
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