第 話 屋根の日陰


ふたりは玄関から右奥にある一枚扉へ。


琥珀の少女は、先頭歩く赤毛の男を上下くまなく眺めながら口を開く。


「なんで機嫌悪くなったの」


「あ?」


赤毛の男は視線合わせるように首をひねる。


"かわいい少女の枯葉色の目は、男の薄い緑色の目へと定まった"


「(今)別に悪かねえだろ」


「今じゃなくて」


赤毛の男は扉の取手へ手を掛け、押し開ける。


「回りくどい」


「ぬすっと~とか言われてむかついたんでしょ」


貴族訛りを嘲るものまね。


扉をくぐった男。少女はぶつかるように迫ってくる扉を手で押しのける。


「何が言いたい」


立ち止まる2人。


「ロスってさ、ナーシェたちと違う感覚(のとこで育ったの)かなってさ」


振り返った赤毛の男。その目は少女の顔をじっと見ている。


「よわっちい(くて死んだ)奴気にしてたり」


もじもじとするように、背中で両手を隠し、男から目線を逸らす。


「(ノアームの頭かち割ろうとしてた)司祭さんのことかわいそうとか思って(そうな顔して見て)たり、ね」


少女は琥珀色の髪を耳にかけた。


「ナーシェも結構、(価値観)違う人たちといること多いからね。気持ちわかるよ」


目を逸らしていた少女は、首元さらすように、頭をかしげて微笑みを作る。


「おれたち(のやってること)は正しいのか?」


姿勢をまっすぐに直した少女、その動きで、きらりとする琥珀色の髪。口の動きにあわせてつま先立ちする。


「さあね」


赤毛の男が顔をしかめるその手前。


「でもやっててさ、痛いっていうか、このへんがそわそわする(かもしれない)」


少女は胸と腹の間を、左手でかきまぜるようにさすった。


「そうかよ」


男は前を向く。眉間にしわ寄っていた固い顔はやわらかくなり、口元はゆるやかに吊り上がった。


目前に廊下。


細い通路の右手には小窓があり、左手には一定の間隔で木製の扉が並んでいる。


赤毛の男は最も近い扉を軽く叩く。取手へ手をかけた。


「熱っ!」


男はとっさに手を離す。


「ばーか」


少女は肩に掛けた鞄から、革の手袋ひとつを取り出す。


「はいどうぞ。弱いふりの焼きが回ったね」


赤毛の男はひらひらと、痛み払うように手を振り、手袋にぐっと手を通す。


「焼けちゃないだろ。ん?(光る玉んとき)なんで使わない?」


「え?うーん手袋だと繊細な動き難しいんだよね」


扉が開かれると、その取手を熱していた金属具がすとんと落ち、女性の甲高い悲鳴が響いた。

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