第23話 氷炭:恬淡



「徴収に来たノアームという者だ」


その部屋には、老婆と、母親、父親、ふたりの子供。


「お願い見逃してくれないか」


男は額を床に擦り付け、嵐が去るのを待つように身を縮こませている。


「どうした」


男の経験上、抵抗か、受け入れるか、の二択以外があったとき、何か問題を抱えていることがほとんどだった。


すがるように顔を上げる父親。


「はい!俺は先月(建設の)仕事中に腹を打っちまって!そっから全く力が湧いてこなくなっちまって(徴収されたら)食うのにすげぇ困ることになる!」


義手の男は顎に手をやる。


「それは気の毒に。大変だな」


父親はにかにかとした、大声、大げさで奇妙な笑い声をあげる。


「そうですそうですそうなんです。この大変さわかるでしょう?ですからお見逃ししてくれねぇか」


「ああ、大変だな………何も力になってやれないが、励ますことぐらいはできる」


義手の男は父親の肩に手を当てる。


「大丈夫だ。今は苦しいが、死に物狂いで頑張っているならいつか曇り空も晴れる。みえないだけで、太陽はいつもそこにある」


「ありがとうございます!」


父親は大声で涙を流す。


義手の男は優しくその背中へ鎚を降り下ろした。


こどもたちの悲鳴。頭を抱えて叫ぶ母親。


ぼーっとよだれを垂らす老婆。


「うそつき!徴税しないって言ったじゃない!」


「ん……?言ってないぞ」


「でもあんたそんな雰囲気かもしだしてたじゃない」


義手の男の目に疑問の色が浮かぶ。悟られることを避けるように瞬き。


その色は消えた。


「……確かに俺がお前たちと同じだったら同じように苦しいが………現実はそうじゃない。俺は徴税官、お前たちはイシュの民だ」


「ひとでなし」


まばたき。


「あほ」


まばたき。


「ぼけ」


まばたき。


「かす」


まばたき。


「がんばればいつか報われる。この腕」


差し出された機械仕掛けの腕をみず、母親は男を睨み続ける。


餓鬼がきの頃吹っ飛んだ」


その目は男を捉え直したが、色は変わらなかった。


「でもあきらめず鍛錬した。そしたらvjoʁɑstɑ(ヴィオラスタ)様が俺を認めてくださって、これをくれた。よくある話だが、だからこそ実際にある。欠けがあるなら、それは強くなるためのいい機会になる」


義手の男は鎚を振り上げる。


母親ははらわたを吐くように、腹底から叫ぶ。


「ああああああああああああああああ!」




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