第22話 廉潔:冷徹



その川沿いの住宅街。琥珀の少女、赤毛の男、義手の男はそれぞれひとりで徴収を行う。悲鳴、罵声、怒声を浴び、刃物、鈍器を躱しながらまりょく道具まどうぐに納めれば、静かに倒れる。


義手の男は淡々と。


琥珀の少女は喜怒哀楽なく。


赤毛の男は盗人と呼ばれるたび顔を歪めた。


鎚を握るその義手はただ流浪の民たらんとして。


握る白く細い手はからっぽ。


傷だらけの大きな手は人のあるべき姿を成そうとするがためにさまよう。


「徴収する」


赤毛の男の前には、寝台の端に腰かけている青年がひとり。体躯は大きく、肌の見える場所には夜の傷痕がいくつもある。


青年は、草色の瞳を伏せてつぶやく。


「変だと思わん?」


その訛りは、イシュの外から来たこと、社会階級の低さを示している。


「生きるために強くなったさ」


青年は、木製の長方体を紐でつないだ首飾り、一字架を握りしめている。熱心に教会へ通っている証。


「石職人の手伝いついでにでかい石たくさん担いで鍛えたさ」


基本的に、体を鍛えればその成長と共にまりょくの貯蔵量と循環量だけは増加する。


「夜警もやって貢献してんのに」


赤毛の男は鎚を振り上げて緩く構えていたが、肩に担ぎ、青年を見つめていた


「でもこうやって奪われる」


徴収によって奪われたまりょくは回復せず、さらに減った量だけ最大値を削る。再び同じ時間と労力を割いて元に戻る。


「毎年毎年」


徴収を行う返納祭は、他国は3年に1度から4年に1度。イシュは2年に1度行われている。


「がんばったやつばっか搾取されてて、おかしいと思う。窃盗と変わんない。国のためとかなんだとか聞くけど。正直国とかそんなのよくわからん。顔も知らんし訛りすぎて何言ってるか聞こえないし、それに」


青年は首飾りを強く握りしめた。


「白神様は(すべての人は)盗みをするなって言ってる。法律だとかなんだとか作ってる王だってそうでしょ」


はたと何かを思い出したように、青年はずいっと前のめりになる。


「あ!そういえば小太りできもい眉毛の男に会ったか」


"そのいやらしく笑む剃り眉の顔が脳裏に浮かぶ"


"鼻を折るように平手で叩いて消し去った"


「ああ」


「くそやろうだったろ」


「さあな」


「あいつ!まりょくがないくせに金で人雇ったりへんなもん振り回して、まるで自分が強いかのようにいばるんだよ。強いのはあいつじゃなくて道具だしさ、(あいつより)俺のほうが強くて努力もしてるのに」


"それはよそでもよくある話。遺伝的に強さを持った一族は商会や刀匠などのような、社会集団に影響力を持つ組織であることが多い。その中、弱い素質で生まれ落ちた者は、剃り眉の男のように振る舞う"



赤毛の男はため息を飲み込んだ。


「もういいか」


青年は深くため息をつく。


「偉いだろ。褒めてくれてたっていい。こんなに我慢してる」


暴れようとしている青年の拳は震えている。


赤毛の男は青年の腹を鎚で叩いた。





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