第 話 日陰の埃 : 流浪の民の少女(プロローグ!意図的読みづらさ!読み飛ばせ!)
「ふあああああああ」
人の姿をした者のあくび。
その音は、
「あああああああああ」
見上げるほどの木が一本だけ生える、人の歩みによって禿げた薄茶の道の上、人の姿をした者が歩いている。
薄灰色の目に射し込もうとした日差しは、額に密着した片手によって遮られた。
「あああああふあああぁぁ………」
人型をした者、肩に触れない程度に伸びたその琥珀色の短髪を片耳にかき上げる。
熱をさらう涼み風はその者の、頭を通す穴の空いた長い長方形の革服と、その上から着られた長袖の外套、肩に掛けられた革鞄を激しくはためかせた。
その服、もとはより大きいものであり、少女の体に合わせて仕立てられていることがうかがえる。
「おー」
“見えてきた”と、首を伸ばして遠くをみつめる。
禿げ道の先に、爪色のような薄く赤い石屋根の家々。
少女の小さな唇は曲剣のように弧を描いて歪んだ。
その者、美しい顔立ちは名工によって作られた石灰の彫像のように彫り深く、上から人間の皮膚をかぶせたような色白さ。両目の下にはふたつずつ、ななめに並んだ大小のほくろ。
そのほくろの上、醜い色の目は笑みによって細まる。小さくて膨らみのある赤い唇は、三日月のように歪んでいる。
「うーーーん!」
琥珀の髪を持つ少女はひざ下まである革靴で禿げ道を踏みながら、肩に掛けた革鞄へと右手を突っ込む。その細い手に収まる小さなガラス瓶が取り出された。
琥珀の少女はその木栓を開け、中身を両目に垂らし強く目を閉じる。
「んーーーーーーー染みるぅ」
まばたき。
ひとたび。
ふたたび。
みたび。
瞳の色は枯葉のようになった。そして太陽から逸らすように伏せられた。
風にあおられながら琥珀の少女は歩み続け、村の出入口前へ。
村に人の気配あらず
琥珀の少女は最も近い建物へ向かい、その扉の戸を指曲げて叩く。
その間に、革の腰帯の小鞄から、魔力を帯び、すり減った硬貨を取り出す。それは、国家君主らによって保証された、徴税を担う者であることの証明。
扉は外側に開かれた。
扉と共に後ろへ下がりながら硬貨を見せつける少女。
「徴収に来ました。ナーシェです」
扉を開けた、片手を背中で隠す男の村人は、琥珀の少女よりも頭ふたつ背が大きい。
しかし、村人の、少女と同じ色の、見下ろしているはずのその目は大きく見開かれ、少女の背よりも縮こまるように見上げていた。
「どうぞ」
硬貨を腰帯の小鞄に戻した琥珀の少女は、建物へ足を踏み入れる。
そこは平屋であり、部屋の仕切りはない。
寝台の端には、子ども三人、ふくよかな腰付きの女が座っており、互いに身を寄せ合い震えている。
部屋の中央、炉のある場まで琥珀の少女は歩き進み、男は少女の背後に回った。
男は背中に回していた手を振り上げる。
その手には短剣が握られていた。
琥珀の少女は振り返ると同時に、足の裏で押し付けるように男の膝を蹴り飛ばす。
短剣放り出して膝を抱えたうずくまる男。こらえる顔は歯を剥き出している。
少女は口をへの字に曲げた。
「あ~のさ何もしなかったら、ナーシェも何もしないから。ん?[前回もそんな感じ?]ちょ〜っと待って[違うな〜]。もしかして(奥さんに)愛想尽かされそうなの?」
琥珀の少女は腰の革帯に留められた、箱型の道具を手に取る。
箱の形から取手の棒が伸び、それは鎚の形を成した。
その様が男の瞳に映り込む。足引きずる男はうめきながら素早く、寝台の端で縮こまる子供と女の前に立った。図体が大きいだけのその小さな背中に、女はそっと子どもたちを抱きしめる。少女の瞳に映る、背を向けて抱きしめている母親のその背中は、最も大きかった。
「ん~契約だからね王様のせいだよ。あ、ほらでも(畑荒らしたり人喰う)
「おれたちで殺してる」
少女は嘲るように鼻を鳴らす。この男は、短剣で刺すのではなく、棒のように振って切ろうとしていた。少女にとって、生き物を殺す経験を積んでいない素人の動きに見えた。
「んふ。お前は違うでしょ~」
放り出された短剣を逆手持ちで拾い上げる少女。脇見える腕の上げ方で構えを作り、切先を向ける。
「教えてあげよっか?」
迫ってきた少女に男の足はたじろいだが踏みとどまる。
子どもたちはより固く抱きしめられた。
ひととき、それを眺める枯葉色の瞳。
「なんてね」
短剣を後ろに放り投げた少女は、
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