第6話 草刈りと摘み取り
義手の男は右手に鎚、左手に縄の束を手に街を駆け巡る。
その左手には束ねられた多くの縄十数があり、その縄を辿ると分厚く大きな革に巻かれた十数なる人間の束があった。
義手の男は屋根を跳び走り、屋根を跳び跨ぎ、屋根から路地へ飛び降りる。そこは湿気に角黒ずむ細い路地。その路地で、壁へもたれかかり目をつぶった隣並ぶふたりの術師。
その術師たちは汗を流しながら、この都市を模した四角い術陣を空中に浮かばせている、若々しく皺のない指で中央から端へ、端から端へとなぞっている。指先がなぞっているもの、その術陣にぶつぶつと浮かぶ小さな玉の模様は、流浪の民を表しているように見えた。
その指先が、自らの座標に重なる。
そのうちのひとりの術師は弾けたように目を開き、短く叫び声を発し上を向いた。
義手の男の、蜜色の瞳とその術師、りんご色の瞳が交わる。
術師は、イシュのものではない言葉で叫んだ。
「来てる―――」
義手の男は細い木の枝を振るように、右手の鎚で術師ふたりの肩を軽やかに叩く。
術師の言葉は続かず。
義手の男は倒れた術師ふたりをじっと見つめ、しゃがみ込みながら左手の縄を離し、人が束ねられた革帯をその手で受け止め地面へ置く。
義手の男は倒れるふたりの術師の手から、それぞれひとつ指輪を取った。
その指輪、細い銀の輪であり米粒ほどの白い濁り石が付いたもの、それらはふたりの術師が身に付けていた
義手の男は肘を曲げ、その関節の隙間から落ちた新たな指輪をもうひとつの手で受ける。
術師の指輪、関節の隙間から落ち出た合計三つの指輪は同じ。
じっと眺める蜜色の目が、濁り石を照らした。そこから顔を離し、それらを肘曲げた義手の関節の隙間へ押し入れる。
義手の男はその同じ肘関節の隙間から縄を長く取り出すと横に滑らせた指で切り、倒れた術師たちを縛った。その術師たちは十数人の昏倒した人間が巻かれる大きな革に加えられる。
義手の男は人束を持たずに屋根へ大きく跳び上がる。その動きは、一本太い糸を出した大きな糸玉のよう。物理法則に従って動く束ねられた人間たちがその屋根に顔をぶつけるより早く、つながった縄に引っ張られる。すると義手の男の軌道をなぞるように跳ねる。
また屋根を跳び、それを繰り返した。
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