第24話 別れたように見えていた道
建物の出入り口、扉を開けると、風が吹き、全ての部屋を吹き抜ける。
担当区域を終わらせ、ふたりとの合流地点付近、気配誘われて路地を覗いた赤毛の男はついに足を止めた。
奥には、木の枝のようにやせ細った老人。ぼろ布をまとい、壁に背を預けうなだれている。
そこまで歩いた赤毛の男は目をそらした。
「徴収する」
赤毛の男は片手でこめかみを挟み、額を覆った。
だらりとした右手に鎚が握られたまま。
近づく足音。琥珀色の髪が風でなびく気配と義手の関節がこすれ合う音。
老人へ近づくたび、赤い前髪で隠れた薄緑の目に力こもるが、額覆う手は落ちてその腕だらり。
その時だった。
うなだれた老人は突如顔上げて腕を伸ばし、生気に溢れた目で布切れを、赤毛の男に握り込ませる。
「そなたは正しい。ここへ導かれなさい」
立ち上がる老人。その背丈は赤毛の男、頭3つ分大きい。息を吸うと膨らむように筋肉で体が盛り上がる。
ちょうど路地の入口から顔を出した琥珀の少女は毛を逆立たせるように悲鳴をあげた。
「なんかいる!」
筋骨隆々の老人は握り拳を、赤毛の男目掛けてまっすぐ振るう。
横へ体をのけぞらせればふわり揺れる赤毛。空を切って壁に蜘蛛の巣状の
老人は一足で屋根まで跳び上がり、大きな足音を立てて離れて行った。
跳び上がってそれを追う義手の男。屋根を走ってその背中を捉え、鎚を振り下ろす。
屋根走る老人は前へ跳び、躱した。振り向かず、ひたすらに直進。
義手の男は鎚を腰帯に収め、義手の平から力を放出、老人へ掴みかかる。
老人は身を投げるように横へ飛び出し、川へ身を沈めた。水柱がひとつ。
勢いのあまり義手の男は、老人がいた直線上を大きく通り過ぎる。手のひらから
追いついた。両手で握りこぶしを作り、水面下の人影へ向かって叩きつける。
雷状の力が迸り、建物超える白い水柱が吹き上がった。
水面の波立つ音だけが聞こえる。
「おい……」
赤毛の男は、手渡されたものを
「うげ……死んだ?」
少女は男のその動作を視界の端に留めながら、老人の影を探して目を動かす。
「あ!」
水がばしゃり落ちる音。川の縁から、枝のようにやせ細った老人抱えた義手の男が現れた。
「もう(徴収は)済ませてある」
赤毛の男は近寄って老人を眺める。
「なんだったんだ……」
固い石の地面に横たわらせられた老人は、疲れたようにぐったりとしているが、薄く閉じられたまぶたから垣間見える瞳は力強い。その目の色は、枯れ葉色、イシュの民特有である、枯れ葉が染みたような透き通る色。
「え~っと」
琥珀の少女は肩に掛けた鞄に手を突っ込む。
赤毛の男はふと少女の目を見た。
「ほい」
取り出したのは乾燥した葉を束ねたものと瓶詰の油、火花を散らすことができる道具。
少女の目と老人の目を比べて、赤毛の男はじっとみつめて歩き出す。
この老人、やたら少女を見つめている。そして不自然に、床を指で叩いている。少女はその指の動きをしっかりととらえているように見えた。
義手の男が赤毛の男へ向かって口を開く。
「この忙しさナーシェが言ってた共和派と、同じ共和派の派閥違いだかなんだかが絡んでいるらしい」
はっと我に返る赤毛の男。
「誰が言ってた」
「長だ。拝領からしばらく、こんな感じのがうろちょろする」
義手の男は腕組みをして老人を見下ろす。
「うし!」
琥珀の少女は声をあげる。葉束からもくもくと濃い白の煙が高く舞い上がった。
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