第19話 隣り合う道筋


「まだぁ~?」


赤毛と、琥珀色の髪がふわりと揺れる。


『要件』


長の声が風で運ばれてきた。


赤毛の男は口を開く。


「(大帳簿の上から)二番(目)が逃げた」


その言葉を、そよ風がさらう。


『追うな。(お前は)副道沿い、(小娘は)貧民街はじっこだ』


風は吹き抜けていった。


しゃきっと勢いよく立ち上がる琥珀の少女。


「どこ!」


少女は屋敷を正面に右と左の道を見る。


右へ歩く赤毛の男。


「とりあえずこっちこい」


その背中を追いかける少女。


黙って歩くふたり。


男はすずしい青い空を見上げ、少女は鬱陶しそうに手で日陰を作る。


男は言葉を選び、おだやかに口を開いた。


「ナーシェ………生まれたそのときから弱さを[運命の邪神かみに]運命づけられてたら……[強くなれないなら]どうする」


「なにそれ変なの。昔話?それって隙見せた[世界を盗られた]太陽が悪いじゃん。」


「そうじゃない。ほんとうの意味で強くなれなかったら……どうする」


眉をひそめて、首を傾げる少女。


「はぁ?(ナーシェは)流浪の民だよ?それ以外[強くなる]の生き方って、なくない?死んじゃうよ?」


仏頂面を保つ。


"しかし心の中では、落胆で歪んだ、諦観の緩やかな笑みを、かわいい顔で正論を言う少女に向けられずにはいられない"


「長から話あった。お前は副道沿い行けとよ」


「え~?!ひとり?!」


「人が足りん」


「えー」


少女は口をふくらませ、人差し指で押してしぼませる。


「ロスどこいくの」


「あーっとな」


口ごもる赤毛の男は、左斜めを指す。


「あそこだ。てかお前の言ってる共和派うんたらって何よ」


少女はまばたき、歩みを速めて赤毛の男と並ぶ。


「知ったかぶってたの?」


男へ顔を向けていた少女は体を傾けて、ずいっと、胸板から少し離れたところで見上げるような姿勢を取る。


男は心の底を覗かれないように、視線を前へ向けた。


「………」


「へえ~そっか~(知ったかぶってたか)そうなんだ。んーまあ複雑なんだけど。よそ貴族もいるし、教会の司祭だって混ざってる。とにかく一言で言えばみんな王様を信じられなくなってるんだよね」


薄緑の目、先のことをもう忘れたかのようだった。今はもう、話を理解するためにその目はまたたいている


「何でよ」


「だから複雑だってば。小さなことの積み重ねでもあるしでっかい溝が一回でできたこともある。税が重いとか病気が広がって放置してるとか。いろんな思いがあって、でもそれがさ、ひとつにつながるわけ、王様なんかいらなくね?って話にさ」


赤毛の男はぼりぼり頭を掻く。


「病気は関係ないっていうか、どうにもならないんじゃねえか。だから共和派ってなによ?今の話となんの繋がりがある」


少女は頬を引きつらせた。


「ああ、うん………えっとね、ここの共和派は王様がいらない国に作り変えようとしてるってこと。あとなんていうかついでというか、王宮は日陰だらけで埃っぽいからだとか」


赤毛の男は喉奥からため息をついた。


「もういい。早く行け」


「あ!」


赤毛の男は、ここから右のほうの塀、端へ向かった。



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