第34話 背骨を捻って振り返る
担当区域を終わらせた義手の男。その腰の道具は赤色へと変じている。
合流地点へ着いた。
誰もいない。
空を眺めてみる。
雨模様だが、光の濃淡を見ればどこに太陽があるかはわかる。
その太陽の動きから、到着が早すぎたという結論は導けない。
見下ろしながら、高層建築物を飛び回る。
すると路地の端、のっそりと歩いてるような赤毛の点が見えた。
落ちるがままに身を委ね、そこへ着地。
「ロス。何してる」
義手の男は赤毛で塞がった目の正面に降り立った。
うつむくその顔を、覗き込む。
「振られたみたいに酷い顔だな…………何があった」
のそりと、充血する薄緑の目は義手を捉える。
「………なんでもない」
「………そうか。それと、どこ向かってるんだ?」
男はすでに終わった区域の中にいる。
「ここか?」
赤毛の男が向きを変えたその場所。そこはひび割れた碧眼持つ青年がいる建物。
義手の男は、声を発しようとするように口をぱくぱくとするが、黙ってついていく。
目標の場所と思しき扉。のそりとそれを押し開ける赤毛の男。
そこには、変わらず寝台で寝息を立てている青年。
青年の額を左手で掴む赤毛の男。
突然、右手を振りかぶる。寝台で寝ている青年を、首もげそうな勢いで叩きだした。
「お?!おい!どうした」
すかさずその手を掴み、そのあと肩を掴んで引きはがす義手の男。赤毛の男はそのまま背中と頭を打ちつけた。
びくりと起き上がる青年。
「いったぁ~何ですか?!」
その目は、枯葉色だった。
ずぶぬれの赤毛に被さる薄緑の目が、大きく開かれる。
音がなく、しかし力強く立ち上がった赤毛の男。
青年の頭が転げ落ちそうなほど、肩を揺さぶった。
「おい目ぇどうした」
「え?目?」
「どうしたロス本当に」
すきま風が吹く。
『遅い早くしろ』
長の声が風に運ばれてきた。
赤毛の男の肩を強く叩く。
「いいからいくぞ」
赤毛の男は青年の胸ぐらを掴んだ。
「あとで追いつく。お前だけ先行け」
「どうしたんだよ行くぞ向かいながら話してくれ」
義手の男は赤毛の男の両肩を掴み、床へ頭叩きつける。
逡巡するように、義手が握り拳を作った。
「すまん」
義手で青年の顔を、振り抜くようにはたく。
寝台は倒れる青年。
倒れたままの赤毛の男肩に担いで外へ出る義手の男。
イシュの中心部へ向かう。
「普通じゃないな。なにがあった」
肩でだらりと赤毛が揺れるだけで、口動く気配はない。
「おい……聞いてるか?」
義手の男は頭を捻る。
はっと息を呑む。
そのとき、腰の
「ナーシェと……関係があるのか?」
それが意味すること。
「死んだのか………?」
枯れた声がなよなよとこぼれ落ちる。
「……………ああ」
首をかしげる義手の男。
「拾わないといけないな。場所は」
「いや………生きて………いる」
さらに首をかしげる義手の男。
「う~ん?とにかくもう拝領だ。いやもう拝領はできないが………次の仕事はすぐだからな。おい、ほら立て」
ぽーんと前へ放り投げられた赤毛の男。
足をついたものの、骨がなくなったようにぐしゃりと転げる。
「何があった………?いや、ナーシェがもう俺たちと仕事できないのはわかったんだが………」
「……………ああ」
義手の男は再び肩に担ぎ上げ、イシュの中心、王宮へと向かった。
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