第4章 Touring car final 13

 S字区間を抜け、高速区間。

「……」

 龍一はじっとRS3 LMSのテールとリアスポイラーを見据える。貼りついても仕掛けない。

 やや直線を抜け、ほぼ直角の左コーナー、次に左のヘアピンと駆け抜けてゆき。

 下り坂の高速右、下り切ったところに低速左コーナーがあり、曲がりながら上り坂になり、次に上りの右を駆け上がり。上り切って、ややフラットの高速左に、また高速左。

(いくぞ……!)

 ヤーナのRS3 LMSはラインを塞ぐ。それは想定内だ。

 右ヘアピンコーナーが先に見える。龍一はアウト側にラインをとり、ブレーキング。荷重移動でリアをスライドさせ、すぐにフルスロットル。唸りを上げるエキゾーストノート。

 シビックタイプRのノーズは上手くラインに乗り。RS3 LMSに迫る。

 右ヘアピンを抜ければ、高速区間のケッセルシェン(Kesselchen)に入る。

 まず高速左。そこで、シビックタイプRのノーズが、RS3 LMSのテールと並んだ。

「ここで来るか!」

 優は思わず唸る。

 コース幅の狭いニュルブルクリンクで、それも高速区間で他車と並び、並走しようとすることが、いかにリスクが高い行為か。

 夜香楠が実況する。

「じっくりとチャンスをうかがっていたDragon選手、この高速区間で来ました!」

「Dragon選手のシビックタイプRとHoney Bear選手のRS3 LMSが並んでいます。まさに一触即発のレースです!」

 と風画流が続けた。

 その通り、右ヘアピンをクリアしてから、シビックタイプRはうまく加速し、速度を乗せ。RS3 LMSに並んだのだ。

 双方フルスロットルで高速区間を、高速コーナーを駆け抜ける。

 双方のマシンが触るか触らないかの、ぎりぎりの接近具合だ。どちらかがハンドル操作を誤れば、接触、ダブルクラッシュもありえた。

 両チームのクルーも固唾を飲んでこのバトルを見守った。

「……」

 集中し、集中の中に意識を埋没させ、ゾーンに入る感覚。ぎりぎりだからそこ、入れる領域というのはあるのだ。

 そのバトルのすぐ後ろに、フィチのヴェロスターN。無理に割り込まず、ついてゆくにとどめる。

 それから少し差が開いて、雄平のRS3 LMSとGhost_SimRacerのLynk & Co 03の4位争い。

 この4位争いも、ぎりぎりのバトルを繰り広げていた。

 シビックタイプRとRS3 LMSのバトル、中速左コーナーで、シビックタイプRのノーズが先んじた。

 少しアクセルを緩め、またフルスロットル。

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