第3章 Race of AM 7

 しかし他の選手は平然とレースをこなす。少しくらいのことで動揺しては、プロは務まらない。

「トップはSpiral K選手のヴェロスターNですが、ぴったりとHoney Bear選手のRS3 LMSがマークします。少し開いてDragon選手のシビックタイプR、YouHee選手のアウディ!」

 と夜香楠。

 レースはこのまま進み、終盤ストレートを抜け、丘を下ってからまた上り坂になり。高速コーナーから右、左のS字を抜ければ。

 メインストレート。ぱっと視界が開け。コントロールタワーの壁にForza Sim Racingのロゴも見えた。

 4台、ヴェロスターN、RS3 LMS、シビックタイプR、RS3 LMSはエキゾーストノートを響かせながらメインストレートを駆け抜けてゆく。

 エキゾーストノートは耳から聞くだけではない。身体全体で受け止め、心に響かせるのだ。

 ゲームのサウンドもリアルになり、そのサウンドに心酔出来るようになった。

(ツーリングカーだから他のハイパワーカテゴリーに比べたらゆっくりだな。だからって、舐めてるやつは勝てねえ)

 何度も繰り返すが、ツーリングカーは扱いやすいカテゴリーだが、だからこその難しさがある。

 ヤーナのRS3 LMSがヴェロスターNのインをうかがう。

 雄平も龍一に迫る。が、インを閉じラインを塞ぐ。雄平のRS3 LMSのノーズがシビックタイプRのテールに軽く接触する。

「はは、雄平のやつめ」

 優はいいぞと不敵な笑みを浮かべる。ヤーナはぎりぎりで接触はしなかった。

 市販車ベースのレースでは、こんな接触は日常茶飯事だ。

 だが順位は変わらず。第1、第2コーナーのシケインを抜けてゆく。軽く触られたくらいで動揺するようではお話にならないのは言うまでもない。

 5位以下は距離が開いた6位の選手が右手を上げ。

「邪魔だよ!」

 と憤りをあらわにし、いよいよ我慢の限界と、第2コーナーで5位のマシンを突っついた。

 5位のマシンはたまらずスピン。コースアウトこそまぬかれたが、コースわきで明後日の方向を向いて、各車一斉に抜かれるに任せるしかなかった。

「くそ!」

 その選手も憤りをあらわにし、自分を突っついた選手に怒鳴り込んでやろうかと思ったが、こらえてレースに復帰する。が、もう最下位近くだ。

 決勝レースへの進出は絶望的だった。

 スチュワードは5位だったマシンを突っついた選手は明らかに違反行為であると、ペナルティーを課すことを決定し、その旨チームに伝えた。

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