第3章 Race of AM 8

 チームクルーたちは苦い顔をして、タイム加算ペナルティーを伝える。しかしそれでも12位以内には入れそうではある。

 このまま走り切れたら。

「Honey Bear選手、すごい密着ぶりです。1位と2位のマシンはまるで一体になっているかのようです!」

 と風画流。

 いいレース展開ではあるが。このレースはセカンドクオリファイのレースで、あくまでも決勝レースのためのレース。

 だが、抑えろなどと野暮なことは言わない。乗っているときは、とことん乗せた方がいい。

「くそ。リーグ戦じゃ猫かぶってたのかよ」

 雄平は思わずこぼす。こちらもシビックタイプRに張り付いているのだが。向こうも後ろに目があるかのように、こちらのラインを上手く防ぐ。

 リーグ戦では、何度も抜いたことがあるのだが。なかなか、人生を懸けた猫かぶりをしたもんだと、皮肉を言いたくなった。

 2位と3位との差は開きそうで開かない。4台ともに一定以上の好調子で走れていた。

 後方では、前を突っついてスピンさせたマシンが、今度は突っつかれる側になって、しきりに後ろから突っつかれていた。

 GPコースは近代的で走りやすいから、抜くならやはりここである。みんな必死になってGPコースで前車を抜こうと必死になるのも当然だった。

 もちろん、走りやすいからと調子に乗れば痛い思いをする。

 なんと5位のマシンは、GPコース終盤の高速右区間からシケインに置いて、突っ込みすぎで直角左コーナーを曲がり切れずアンダーステアを出し、コースアウトしてしまった。接触はされていない。

 後ろからのプレッシャーに負けてしまったのだ。

 急いで復帰しようとするが、目の前を、自分が突っついたマシンが駆け抜けてゆく。何とも怖い因果応報な展開だった。

 チームクルーは思わず天を仰いだ。

 トップ4台はすでにノルトシュライフェに入った。

「5位との差はどれほどですか?」

 とフィチはチームに問い。答えが返ってくると、

「了解しました」

 と落ち着いて応えた。

 変な話、無理に1位にならなくてもいいのだ。フィチは無理しすぎによるミスに用心した。

(かといって、抜かれてもいいなんてことはないわけで)

 無理にペースを上げようとはしなかったが、後ろに気を配り、抜かせないようにも気を配った。

 3位と4位も同じような感じで。

 5位以下とは距離も開いた。

 大きな変異なく。2週目も走り切り。3週目に入った。

 しかし一触即発の状態なほど接近している。緊張感は張り詰めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る