第3章 Race of AM 9

 ここでさすがに、

「ヤーナ。無理するなよ」

 と優は伝えた。信じているが、信じているからこそ伝えた。

「わかってるよ」

 と陽気で楽しそうな声が返ってきた。

 順位は変動しそうでせず、ラストラップ、ゴールまでの距離はぐんぐん縮められてゆく。

 感じとしては、ウィングタイガー的にはいい流れだが、レッドブレイド的には面白みに欠ける。

 コースも終盤のロングストレートに入った。

 雄平のRS3 LMSがシビックタイプRに迫る。スリップストリームに上手く入れた。

「YouHee選手のアウディがDragon選手のシビックをパス! 順位が入れ替わります!」

 と風画流。

 勢いをつけたRS3 LMSは、あれよあれよとシビックタイプRを追い越してゆく。控え室でのクルーは、よし、あるいは、あちゃあと、それぞれのリアクションを見せた。ショーンまでも、「Oh」と漏らした。

「やられた」

 悔しそうな龍一のつぶやき。

 ヤーナもフィチを抜こうとするが。うまく加速を乗せたヴェロスターNを抜くことは出来なかった。

 さすがにここまで来て無理は出来ないので、そのままゴールを目指した。

 3位と4位は入れ替わった。龍一は順位を下げたが、無理に挽回しようとしてクラッシュをしては何もならないから、悔しさをこらえるしかなかった。

 第2レースは、フィチことSpiral Kのヒョンデ・ヴェロスターNが1位! 続いてヤーナことHoney Bearのアウディ・RS3 LMS、同じアウディの雄平ことYouHeeに、ホンダ・シビックタイプRの龍一ことDragon。

 以下続々とゴールをする。

 リタイヤ設定ありだったので、リタイヤした選手もいて。25台のうち完走は21台だった。

 12位以内に入れた選手は、次に進めることに喜ぶ。とはいっても、完全にではない。

「ああ、悔しい……」

 龍一はシムリグから立ち上がる直前、そうつぶやいた。土壇場で勝負に負けたのだ。他にもそんな選手が数名いた。

 12位内に入れた、よかった、次に行けるからまあいいかと考えず、悔しい思いをするのは、闘志の顕われであり、悪いことではないが。

 13位以下の選手は、その悔しさは察して余りある。無念の面持ちで会場を後にする。

 雄平は、手応えを感じながらシムリグから立ち上がり。チームメイトのヤーナとハイタッチをする。ヤーナは最後までフィチを抜けなかったが、重要なのは決勝レースなのでこだわりはなく、さっぱりしたものだった。

 フィチも手応えを感じながらシムリグから立ち上がった。

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