第3章 Race of AM 6

 龍一のホンダ・シビックタイプRと雄平のアウディ・RS3 LMSは少し車間距離を開けて尾行するかたちだ。

 ノルトシュライフェは一見くねくね道ではあるが、スピードの乗りは高い。

 扱いやすいとはいえミスをすれば大幅な減速をして、乗せなおすのに手間がかかるツーリングカー。フィチは大胆さと繊細さの双方を以ってマシンを走らせる。

 小型カメラを通じて選手たちが映される。普段温和そうなフィチの面持ちは真剣そのものだ。逆にクールなヤーナはとても楽しそうで。対照的であった。

 子供用ベッドに腰掛けているショーンがテレビに向け指をさす。そばのアレクサンドラも微笑みを向ける。幼い彼も家族やクルーたちとともにレースを楽しんでいるようだ。

 よほど好奇心を搔き立てられたか、立ち上がって歩き出そうとしたが、あっと転んでしまった。しかしアレクサンドラは手を貸さなかった。

「ショーン、自分で立ち上がるのよ」

 と優しく言う。我が子を慈しむからこその、厳愛であった。優佳は、いいなと微笑みながら見つめる。

 言われて、ショーンは頑張って自分で立ち上がった。拍手が起こった。

 自分の足で円卓まで来て、マルタが抱き上げて椅子に座らせてやる。さすがにこれは大人が手を貸さなければいけなかった。

 みんなの目は一斉にレースを見据えていた。

 レッドブレイドもレースを見据える。

 後方でクラッシュがあったようだ。それも2台が絡む。レースゲームは、実質ダメージなしの設定から、ダメージありリタイヤありの設定まで決めることが出来るが。

 これはプロのレースだ。クラッシュにおいて実質ダメージがあり、酷ければターミナルダメージ(Terminal damage)として強制リタイヤとなり、マシンは儚く消えてゆく。

 2台のマシンは、ターミナルダメージのようで、ゴーストのように儚く消えていった。

「Shit!」

 選手が立ち上がる。リタイヤした選手だ。もうひとりも立ち上がる。目が合って、互いに迫り、開催スタッフが急ぎ間に入り。なだめながら場外に出す。

 この様子も映し出される。

「気持ちはわかるがな」

 優は苦笑しながらその様を眺める。もし乱闘騒ぎを起こし、運営に支障をきたす事態になれば、重いペナルティーが課せられるのは言うまでもないが。

 幸いそこまで事態は悪化しなかった。リタイヤした選手は互いに短気を詫び、チーム控え室へど帰ってゆく。

 ただ無用な緊張感をもたらしたことで、軽くながらペナルティーを受けることとなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る