第1章 The game begins 4

 溌剌と、口元にひとつこめつぶをつけながら、カースティは美味しい美味しいと白米のおむすびをたいらげ、たくあんをぽりぽり噛み、湯呑のお茶をすすって。

「Gochisosama!」

 と、笑顔で言った。

 アンディは、他のイベントでアイリーンとカースティと競い合ったこともある。顔なじみではあったが、好もしそうな面持ちでその様子を眺めていた。

 雄平と俊哉にとっては、グローバルで活動する選手と組んだり、競い合うことは、スキルアップの絶好の機会だった。

 見渡せば、それぞれのチームに、様々な国籍や人種の選手がいる。まるで虹の花が咲いたような賑わいだった。

 場内アナウンス放送が流れる。

 それぞれのチームにあてがわれた部屋に待機してのち、最上階の大ホールにてこの試合のミーティングをするとのことだ。

 それぞれ部屋に向かい。手荷物を置き、旅の疲れを癒し。しばしして、大ホールに集まった。

 ショーンは部屋でアレクサンドラとマルタが面倒を見る。他のチームの家族や恋人、友人などゲストも同じように部屋で待機する。

 部屋は大きめの円卓が置かれ、人数分の椅子も用意されていた。部屋の隅では3段ベッド。

 レース中は、スタッフたちはこの部屋で、無線で選手とやりとりをする。耐久では、選手も部屋で待機し、必要ならベッドで横になって休む。

「おお、すげえ」

 思わず声が上がる。 

 ホールの広さもさることながら、サイバー感あふれる様々な色の電飾、黒い壁には、緑の文字で描かれたForza Sim Racingのロゴと、大会スポンサー各社のロゴと、シルバーのツーリングカーとGTマシンのシルエット。

 今は照明はめいっぱい点けられているが、試合時には薄暗くなる。

 そこに25台のシムリグがセットされているのだ。1列につき5台、横5列に並べられている。

 スペース確保のためディスプレイはミドルサイズだが、ゲームプレイには支障はない。

 この試合はHOM電気が扱う商品のプロモーションも兼ねている。シムリグもその取扱商品でもあり、最新式なのは言うまでもない。

 ひとりの女性がマイクを持ち、集まった選手や関係者に丁寧な挨拶を、日本語でして。それから女性のそばの男性通訳が英語で伝える。

「ようこそおいでくださいました、HOM電気の代表取締役、北条えいこと申します。社員一同、皆さまを歓迎いたします」

 拍手が起こる。いよいよ始まるのだという、心地よい緊張感を覚える。

(これがヤバいドラマだったら、デスゲームさせられるんだよね)

 などと、ヤーナはおかしなジョークを脳裏に思い描く。勝たないと生きて出られない、なんて。

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