第4章 Touring car final 7

 韓国でのeスポーツイベントで、かのリーグ戦に参戦するレジェンドプレイヤーと共演したこともある。

 勝てば、でかい。

「強さの秘訣はメガネか?」

 ぽそっと雄平の口から漏れる声。

「龍一は様子見?」

 カースティがぽそっと漏らすように言う。

「Dragonだけど虎視眈々ってところね」

 とソキョン。

 優佳は少し、ぷっと笑う。

 ショーンもこの場が好きなのか、にこにこ笑顔でクルーと同じ時を過ごす。

「もう駄目よ」

 ここはお菓子もいっぱいある。ショーンもついついつまんでしまうが、調子に乗るとアイリーンなりアレクサンドラなりに止められ、取り上げられ。子供特有の、愛嬌ある悲哀の面持ちを見せた。

 いっぱいのお菓子にゲーム、まるで天国のようだが。誰でも無条件でいられるわけではない。地獄で戦い抜く者にしか来れないプロの試合の場で。いままさにここで地獄の戦いが繰り広げられているのだ。

 試合で負ければ、お菓子の美味しさなどいっぺんに吹っ飛んでしまうのだ。

 が、まだ幼いショーンにはわからないのは無理もない。お菓子を取り上げられて、ふてくされたショーンは、ベッドに横たわって。そのまますやすや寝てしまった。

 苦笑しつつ。このまま寝てくれた方が大人たちには助かった。

 フィチのヴェロスターNは逃げにかかるかと思われたが、巧みに雄平のRS3 LMSのラインを潰し、トップを維持する。

「雄平飛ばしすぎ!」

 ヤーナは思わずつぶやく。無線は個別に分かれているので、これが雄平や他の選手に聞こえることはないものの。

「……」

 フィチは無言。

 雄平のペースはなかなかのものだ。

 右高速を駆け抜け、上り坂。上り切ると右中速コーナー、S字で切り返しつつ、高速左の下り坂で、下り切って上り坂。4台は数珠繋ぎで駆け抜けてゆく。

 上り切って、高速左。フィチのヴェロスターNがインを開けた。そこに雄平のRS3 LMSが飛び込む。

 夜香楠が実況する。

「YouHee選手がトップに立ちました!」

「Spiral K選手はその勢いに押されてしまったのでしょうか」

 と風画流が言った途端。トップの雄平のRS3 LMS、Yokohamaブリッジの手前の右コーナーで、突っ込みすぎの急ブレーキ。ペースダウン。

 そのイン側から、3台追い抜いてゆく。

 風画流が実況する。

「YouHee選手、思わぬ減速!」

「勢いをつけすぎちゃったみたいですねえ、もったいないことです」

 と夜香楠が言い。

 2階中ホールでは、最初、うおお、だったのが。ああ~、と変わった。

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