第2章 Touring car qualifying 10

「2番手にはウィングタイガーのDragon選手がつきます。リーグ戦の不振が信じられないほどの復活ぶりです!」

 と言うのは、もうひとり、風画流(かぜが・ながれ)というグリーンヘアにグリーンアイの、ハイティーンの女の子のヴァーチャルチューバ―。普段はアイドルのような、煌びやかな華美な装いをした姿で活動しているが、今イベントに合わせグリーンのレーシングスーツ姿になっていた。

「予選のトップ4はレッドブレイドとウィングタイガーの選手、ポールポジションはこの4名の争いに絞られたようです」

 と夜香楠。

「この予選、参加者全員通過しそうですが、決勝レースに行けるのは第2グループのレースで上位12位以上に入った選手のみです。だからみなさん必死の走りです」

 と風画流。

 たまに下位に落ち込んだ選手の面持ちが小型カメラを通じて映し出されるが、浮かない表情だ。

 コースレイアウトも難しくコース幅も狭いニュルブルクリンクで、下位スタートから追い上げて上位に入賞するのはほぼ不可能だ。

 それでも奇跡を期待するのは、人情ではあるが。奇跡を期待するような試合運びをしている時点で……。

 参加者全員ガチ勢。ガチ勢の中のガチ勢。そんなガチ勢によるバトルロイヤルなのだ。

 25台のツーリングカーはタイムを求め。時間は刻々と過ぎてゆく。

 1周の距離が長いニュルブルクリンク。完全ノーミスで走るのは不可能だ。みんな何かしらのミスをしている。

 そのミスをしてしまった時のリカバリー能力も求められる。

 フィチのヴェロスターNはリアスライドをさせながらコーナーを駆け抜ける。前輪駆動だが、リアを流しやすいセッティングにしてタイムを稼ぐのだ。

 これは他のプレイヤーもしていることだ。前輪駆動車は基本的にアンダーステア(曲がりづらい)、これは高速区間では安定性につながるものの、中低速コーナーにおいては走りづらさになる。

 ニュルブルクリンクはストレートらしいストレートは終盤だけで、あとは曲がりくねっている。荷重移動によってリアを流し、コーナーでの操作の負担を減らすのだ。

 多くの選手は自分のゴーストを表示させ、それを追いながらタイムを叩き出そうとする。しかしワンミスでゴーストは遠く離れてゆく。

 予選タイムアタックは自分との戦いでもあった。

 残り20分を過ぎれば、タイムに動きはほぼなくなってゆく。下位の選手がようやく感覚を取り戻し、自身のタイムを更新させてゆくが。上位半分に至ることはめったになかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る