第2章 Touring car qualifying 11
龍一もフィチも、ヤーナも雄平も、必死の走りをしているのだ。
「ツーリングカーは扱いやすいから、限界超えて当たり前。限界のそのまた限界まで攻めなきゃ勝てないよ」
と、ソキョンは常々言っていたものだった。で、今もそう言って。他の面々は頷く。
扱いやすい車両のカテゴリーはアンダーカテゴリーとして扱われ、それゆえ侮る人もある。しかし実際にレースをしてみれば、これほどミスを許されず、限界突破を強いられる車両もない。
ツーリングカーはいわば、日本風に言えば通好みのレースなのだ。またこれからの若手からベテランまで、選手の層も厚かった。
時間は刻々と過ぎてゆく。
順位は、ヤーナ、フィチ、雄平、龍一となっていた。残りは15分を切った。
一斉スタートだった予選だが、ミスや休憩を挟み挟みして、それぞればらばらの位置で走るようになっていた。
「トップ4のタイムは拮抗していますが、動きはありません。さすがにこれで決まりでしょうか?」
と夜香楠。
「残りは10分を切りましたが、各選手最後まであきらめない走りを見せています」
と風画流。
2階中ホールや、ライブ配信を通じて観戦する観客たちも、このまま予選を終えるだろうと思っていた。
そしてその通り、予選は終わった。終わり近くになって、誰かが仰天タイムを叩き出すという、奇跡は起きなかった。
それだけ、初っ端から攻めに攻めた、ということでもあった。
ツーリングカーの予選は終わった。ポールポジションはヤーナ、続いて龍一、雄平、フィチ……。という並びになった。
「お疲れさん」
ヤーナは不敵な笑みを湛え、龍一に拳を差し出せば、
「お疲れさんです」
と、龍一もそれなりに愛想よく拳を合わせる。
下位に落ち、納得の走りが出来なかった選手は憮然と足早に大ホールを出て、エレベーターではなく階段で降りてチーム控室にゆく。
龍一たちも階段で降りる。エレベーターはもっと下の階のチームの選手に譲る。
3番手につけた雄平は興奮を隠しきれない様子で、そわそわしていた。4番手のフィチは、落ち着いた様子だった。
「もう勝った気でいるんじゃないよ」
雄平のそわそわする様を見て、ヤーナは軽くからかう。
「そんなに浮かれてないよ」
「その割には肩が揺れてるねえ」
「そりゃまあ、勝ちたいからな」
「賛成、賛成」
フィチが笑いながら、日本語で割り込んでくる。雄平は、
(え、日本語も出来たのか!?)
と、少し驚く。
(そういえば4位なのに落ち着いてるな)
追い上げる自信があるということか。その余裕ある姿に、かのリーグ戦に参戦するレジェンドプレイヤーを思い浮かべ、重ねてしまった。
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