第2章 Touring car qualifying 6

 右に左にくねくねするのみならず、上に下にと起伏もある。マシンは不安定になり、扱いやすいツーリングカーといえども挙動を乱しコースアウトしかねない。

 そんな悪条件下で、速度を高く維持しなければいけないのだ。

 アマチュアのエンジョイ勢が流すような走りは許されない。

 それとは対照的に、空は青く澄んで。土手の上の観客たちは旗を振り、楽しそうにしている。看板や横断幕、ニュルのコース図を描いたネオンなど。

 そこには、地獄を見物する天国の住人の対照的な姿があった。

 天国の住人と地獄を駆け抜けるドライバーの不思議な共存があった。

 それはともかく、コースは、ストレートらしいストレートもない。アクセルベタ踏みで行けるようなところも、微妙に曲がっている。

微妙なラインの読み違いで速度の乗りが大きく違ってくる、ということは、タイムも違ってくる。

 飛ばせると思って調子に乗って、ラインを違え、速度を落とし。取り戻そうと焦れば、挙動を乱し。片輪をコースオフさせて。そのままコースアウト。

 逆に、全てのタイミングが合えば。高い速度を維持しコースを駆け抜けることが出来る。

 曲がりつつも、飛ばせる下りも数か所あり、引力の力を借りて勢いを増す。

 下りで上手い具合に速度を乗せられれば、250キロ近くまで出る。終盤の直線より出る。いけると思い、いこうとする。

 だがそれも地獄の罠でもあった。

 上りが終わりフラット区間の高速左。調子に乗って、コースアウトしたマシンが映し出される。

 エスケープゾーンは狭いうえに、速度が乗ればガードレールまで一直線!

 マシンはぶつかり、弾け飛んで。マシンは腹でコースとエスケープゾーンの境をまたぎ、動かない。

「Shit!」

 痛恨のミスの悔しさから、ハンドルを叩く。その姿がシムリグ備え付けの小型カメラを通じて映し出される。

「獄卒に捕まったのね」

 マルタはしみじみそうに言う。彼女もニュルを走り、シムレーシングとはいえ、その怖さを思い知ったひとりでもある。同時に、それゆえに愛するひとりでもあった。

 シビックタイプRとヴェロスターNは、今の時点ではよく走れている。が、日本でのチャンピオンチームの2台のアウディも、良い感じで走れている。

 実車に比べてゲームだから疲労や負担は確かに少ない。なにより肉体的な損傷はない。が、それゆえにさらなる限界突破を要求されるので、メンタル的には相当きつくなる。

 長い直線を抜け、丘を下り、上り坂をのぼり、メインストレートにかえってくる。

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