第2章 Touring car qualifying 5

 と、まるで自分のとこの選手に言うように優はつぶやき。アンディと俊哉たちはおかしみを覚える。

 とはいえコースアウトを最小限にとどめ、素早く復帰した。そこらへんはやはり厳しい審査を通っただけあるというところか。

 高速の左をアクセル全開で抜けたあと、左、右のシケイン。そのシケインをクリアして次の左コーナーを抜ければ、さあ北コース。

 ここから雰囲気は一変する。

「五分五分ね……」

 ソキョンはつぶやく。画面に表示されるタイム表を見れば、コースアウトしたマシンは最下位だが、そこから上は、トップからは大げさに差はない。

 龍一のシビックタイプR4位、フィチのヴェロスターN5位と、それなりのポジションだが、1位はヤーナで、2位は雄平のRS3 LMSだった。

「アウディがトップ2、さすがチャンピオンチームですねえ」

「何言ってんの、私らもチャンプでしょうが」

「あ、そうです、そうです」

(龍一の10位は、優佳も堪えちゃってるみたいね……)

 レースごとの報告は、龍一の絶不調に対し悲鳴を上げているかのような悲壮的なものだった。

 優佳も龍一を励まし、龍一も応えようと頑張ってはいたが……。

 スランプに陥ったのは、いかんともしがたかった。

 龍一はチームに所属し、今季で4シーズン目になる。

 昨シーズンは調子は良くランキング3位だったのだ。だからこそ今シーズンチャンプの期待があったのだが。

「スランプは、調子がいい時にも起きるけどね……」

 ソキョンも優佳も、スポーツ心理学を知らぬわけはなかった。

「プレッシャーに負けたのかも」

 と、ソキョンはため息交じりに言ったものだった。これに対しマルタも、

「うちでも無理ね」

 と厳しいことを言う。そこはやはり、プロ、なのだから。

「プレッシャーに負けて、スランプに陥るようじゃ、契約更新は無理よ」

 と言いつつ、温情としてこのグリーンヘル・カップでの成績次第では、と。再起に期待したのだった。

(これはこれでプロ意識に欠けるけどね)

 と思いつつ、

「いけるかな?」

 ソキョンはぽそりとつぶやき、他の面々も期待を込めて頷いた。

 GPコースでのタイムは、北コースことノルトシュライフェでは参考にならない。およそ25キロのうちの5キロ弱なのだから。

 北コースは、簡単に表現すれば、ラリーのターマックコースのようなくねくね道である。

 雰囲気も景色も一変し、路面の落書きも目に飛び込んでくる。

 そこでは、獄卒が獲物を狙うような不穏さも禁じ得なかった。

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