第4章 Touring car final 14

「ああ、もう!」

 これ以上無理をすれば、アウトに膨らみコースアウトだ。ヤーナは忌々しく眉をひそめ、減速を余儀なくされた。

 次の右高速コーナーでは、シビックタイプRがトップに!

 後ろからRS3 LMSが追い、それをまたヴェロスターNが追う。

「よっしゃー!」

 とソキョンは思わず大声を出した。もちろん他のクルーもだ。控え室は爆発した。これでフィチが2位に上がれば、言うことはないが。

 対するレッドブレイドは、じっと画面を見据えて、バトルを見守る。

 次の右コーナーもクリアし、バンクのある左ヘアピンコーナー、カラツィオラ・カルッセル。

 3台バンクに乗り、ここはそつなくクリア。

(トップだ……!)

 前にはなにもない。こんな視界は、いつぶりだろうか。残りをこのまま終われるかどうか。

 トップに立って思い出す、Forza E World GP。

 ライバルながら自分を励ましてくれたカースティや、同じく好敵手として良き友人として接してくれたアイリーンに、チームメイトのフィチ、憧れを抱いていた元プロレーサーのカール。

 その他、様々なことが、走馬灯のように浮かんだ。不思議なことに、それでいて集中は途切れなかった。

 大きく息を吐き出す。

 ヤーナのRS3 LMSも抜かれたとはいえ、簡単には引き離されない。しぶとく食らいつく。フィチのヴェロスターNも続く。

 トップの興奮からか、龍一の脳がバシバシバシッ! と強い電撃の刺激を受けた感じがした。

 風画流が実況する。

「それまで目立っていたとは言えなかったDragon選手ですが、ここに来て一気に存在感を示しています!」

 続いて夜香楠。

「ラストラップも後半に入り、誰が勝つかわからない展開になりました。勝利の女神は誰に微笑むのか!」

 2階中ホールの観客たちも、おおー、と歓声を上げ、レース観戦を楽しんでいた。

 それほど高いスピードではないツーリングカーのレースだが、伯仲したバトルに、ギャラリーたちはやんやの喝采だ。ライブ配信のチャットも盛り上がる。

 右に左に、上ったり下ったり。手強いコーナーをクリアしてゆき。イン側少しバンクのある左コーナーを抜ける。

 順位は龍一のシビックタイプR、ヤーナのRS3 LMS、フィチのヴェロスターN。

 少し差が開いて雄平のRS3 LMS、Ghost_SimRacerのLynk & Co 03。

 さらに進んで、終盤のロングストレート。フルスロットル。

 マシンのエキゾーストノートは唸りを上げ、一気に咆哮する。

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