第2章 Touring car qualifying 2

 いたいからいられるわけではないのだ。心を鬼にし、励ましつつ、敢えて厳しいことを言うときもあった。

 龍一とフィチは他の選手の走りを見て、参考になるところは学び、ミスがあればそれを教訓にした。

 なにより、コースレイアウトを改めて頭に叩き込もうとする。走り込んでも走り込んでも、これで大丈夫はない。

 見ながら、知らずに腕や足を動かすこともあった。それを見て、マルタは笑みを湛えた。

 アイリーンはショーンを足の上に置いて、パートナーのアレクサンドラは紙コップに入れたコーヒーをすすっていた。

 3段ベッドの近くに、子供用の低めのベッドが置かれていた。ショーン用である。主催者が特別に用意し、ショーンがいつでも休めるようにとの配慮だった。さらには、アレクサンドラとショーンのために、さらにはマルタにも、特別外出許可証があらかじめ用意されていた。

 ショーンがここで落ち着かない場合は、気晴らしの散歩をしたり、宿泊先のホテルに戻るためであった。

 北条えいこは自身の役目のために会えないが、メールで感謝の意を伝えた。

 ショーンはアイリーンの足から降りて、アレクサンドラのもとにゆけば、ベッドに連れて行かれる。眠たくなったそぶりを見せ、あくびをしたのだ。

 ベッドに横にすれば、すやすやと眠りについた。

「子供はよく寝るわね」 

 と、マルタは笑顔でその寝顔を見つめた。アレクサンドラも同じく。だが、アイリーンはテレビで予選を見据えていた。

「やった」

 龍一は思わず声を出す。

 フォード・フォーカスが北コースに入ってすぐの左コーナーでアンダーステア(曲がらない)を出してコースアウトし、ガードレールにヒットしたのだ。

 カースティは立ち上がって、背伸びをし、軽くストレッチ。座りっぱなしはやはり身も心も落ち着かないものだ。

 それからクッキーをぱくついて、ミネラルウォーターで流し込んだ。

 フォーカスは幸いダメージはなくコースに戻り走り出す。

 次に、おお、と声が出る。

 トップタイムのタイムがなかなかのものだったのだ。

「トップは……」

 と見れば、グリーン/ホワイトのボクスホール・アストラを駆るRacingBallなるシムレーサー。

 以下のタイムも差は小さく拮抗している。

 自分たちの参加する第2グループの予選に、決勝レースは、激戦になるだろう。

 ソキョンの言う通り、限界を超えた戦いとなり、限界のそのまた限界まで攻めなければ勝てないレースとなる。

 それは同時に、扱いやすさの中にある罠でもあった。

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