第4章 Touring car final 5

 ひどいダメージを受けてリタイヤした場合は、マシンはゴーストのように消えてなくなってゆく。数台そうして消えた。その中にはRacingBallのアストラもあった。

 風画流の実況は伝える。

「これにより1位から4位のバトルと、それ以下の差が大きく開いてしまいました」

「優勝争いは第2レース同様にレッドブレイドとウィングタイガーの2台に絞られたようです!」

 RacingBallをはじめとするリタイヤした選手たちは無言で、無念の面持ちでシムリグから立ち上がり、クルーのいるチーム控え室へと帰ってゆく。

「言っちゃわりぃが、このレースオレたちにツキがあるみてえだな」

 と優は言う。

「まあ、なんという」

 マルタにアイリーン、アレクサンドラはライバルのリタイヤを喜べなかった。マルタは仏教を信仰していて、合掌してリタイヤした選手たちに祈りをささげた。

 カースティはおむすびを頬張りながら、真剣な眼差しでレースを見守る。

「だからって、うちらもつまんないミスしたら元も子もないわ」

 と、無線を通じて聞こえるように言った。

 返事はない。ヤーナのRS3 LMSを追うのに懸命だ。

 ツーリングカーは扱いやすく、スピードも大げさに出はしないので、画面で見ればゆっくりめだが。わかる者にはわかる。ツーリングカーで高い速度を維持することがどれほど技量が必要なのかを。

 ぱっと見のド派手ドリフトにしか感じない素人には楽しめない。しかし見聞を広め、深めることで、玄人的見識が培われ、一見地味に見えるツーリングカーにも楽しみがあるのが理解出来るようになり。本当に、ドリフトを含めたモータースポーツというジャンルそのものを楽しめるようになる。

 開催に当たり、カテゴリーは論議となったが。敢えてツーリングカーにしたのは、本当にレースゲームが、レースが好きな人に観てもらおうという判断からだった。

 いたずらな集客はせず、わかる人にわかってもらえたらいい、と。オープンホイールや後輪駆動の2ドアクーペばかりがレーシングマシンではない。

 ヤーナは逃げにかかる。一度たりとも抜かせるものか、と。フィチに雄平、龍一はそれを追う。

 1週目は順位の変動はなく、メインストレートにかえってきて2週目に入る。

 フィチのヴェロスターNがヤーナのRS3 LMSのインをうかがう素振りを見せるが、無理にインを突くことはしない。雄平のRS3 LMSが前にぐんと迫り、同じく龍一のシビックタイプRもぐんと迫る。

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