プロローグ 5
ただ、ビルの1階にレストランがあるが、観客専用となる。その観客との鉢合わせやそれに関するトラブルも避けるために、選手やスタッフは利用出来ない。その代わり、提携する弁当屋からデリバリーで頼むことが出来る。
ファンや関係者、マスコミの注目度も高い。
しかし、参加したいから参加出来るわけではない。厳格な審査があり。試合の実績を考慮しての抽選による参加となるが。
ウィングタイガーはフィチの韓国リーグチャンピオンという実績のおかげで、グリーンヘル・カップへの参加が認められた。
龍一の今季の成績でははじかれるのは言うまでもなかったが。過去世界大会に優勝経験があることが、かろうじて引っ掛かったところもあった。
参加チーム及び選手はアジア圏だけでなく、世界中、グローバルなチームが申請し、審査を受ける。
それにふさわしい形式、ステータス、そして賞金も。世界中のチームや選手が参加したいと思えるような創意工夫がなされていて。参加し甲斐がある試合なのは間違いなかった。
スマホが鳴る。チームメイトのフィチからだった。
「ヨボセヨ」
と出る。画面にはメガネをかけた、温和そうな青年が映る。フィチだ。
「やあ、どうしてるかなと思って」
「ああ、練習頑張ってるよ」
「うん、そうか、気合入っているな」
「そりゃあ、クビはいやだからな」
韓国の自宅にいるフィチは、少し間を置き、
「そうだね」
と応える。
「ソキョンさんも、なるべくなら龍一を手放したくないんだよ。真面目だしね」
かえって龍一は苦笑する。
事実ソキョンは、技量と人柄の両方を備えた龍一を重宝していた。残念ながらeスポーツ選手にも、アレな性格なのはいる。ウデだけではどうにもならないのも、プロの世界だった。
かといって、成績が伴わなければいかに性格がよくでもクビは免れない。龍一もそれは百も承知。
「なあ」
「うん?」
「プロは厳しいなあ」
「そうだね。僕だって、余裕でチャンプになれたわけじゃない。必死にタイトロープを渡る思いだったさ」
(ああ、そうか。龍一にとって、人生で一番の挫折になるかもしれないのか)
ふと、フィチはそう思った。
並の選手なら10位でもいいだろうが、龍一はトップチームに所属するトップ選手でなければならないのだ。勝利は義務だったが、果たせなかった。
それだけでも十分な挫折感だが、グリーンヘル・カップでの成績も悪ければ……。
「まあでも、今は目の前のことに集中しよう! いいね」
「ああ、しがみついてみせるさ」
「その意気だ、いいぞ」
そこで話は終わった。
龍一は気晴らしに、愛車のミライースで外出し、適当な店を見つけて外食し。
アパートに戻るとシムリグに身を置き、ライバル車がいるレースモードにして、今度は違うマシンで、再びニュルブルクリンク・フルコースを走り込むのだった。
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