第32話

娘は、晶さんとひよりさんが預かると言ってくれて、申し訳ないのに甘えてしまった。



二人は娘を凄く可愛がってくれて、そんな二人には本当にお世話になりっぱなしで、頭が上がらない。



二日は余裕でかかるんじゃないかと聞かれた時は、心臓が飛び出るかと思うくらいだった。



シャワーを浴びて、拓人の好きそうな下着を着けていると、どんどん緊張してきた。



こんな状況が初めてだったから、どうするのが正解か分からず、恥ずかしいけどアドバイスももらった。



「大丈夫……なんとか、なる、はず……」



言ってみたものの、自信は全く生まれない。



比較的脱がせやすい、ワンピース型のパジャマに袖を通す。



今日は食事を取ってくるらしいので、正直やる事がない。



無駄に緊張が膨れてくる。



今更震えてくる。怖さではなく、恥ずかしさだ。



自分が今からする事が、どれだけ無謀で大胆な事なのか。



「ちょっとだけ、お酒……飲んで、みようかな……」



時間が経つにつれて、シラフでいるのが辛くなってきた。



お酒はほとんど飲まないけど、少しくらいなら何とかなるはず。



飲みすぎてしまって、とかになったら本末転倒だから、飲み過ぎないようにしないと。



アルコールの少ないお酒を選び、一口、二口と喉に流し込む。



半分くらい飲んで、少し顔が火照って来た頃、玄関の鍵が開く音がした。



お出迎えする為に立ち上がった。



はずだった。



「ただい……危ねっ」



よろけて転びそうになった私を、間一髪の所で拓人が受け止める。



「何やってんだよ。つか、お前、酒飲んでんのか?」



「おかえりなさい。えへへ、ちょっとフラついちゃった」



別に酔ってはいない。さすがの私も半分くらいでは酔わない。



けれど、拓人は心配そうに見つめてくる。



どうしよう。凄く格好いい。



ネクタイのないスーツが少しはだけていて、女の私なんかよりずっと色っぽくて、男らしい魅力的な人。



「んな物欲しそうな顔で見んなよ。食っちまうぞ」



そう言って笑った拓人を見つめ、口を開く。



「食べても……いいよ」



「っ!?」



強請るように見つめ、拓人の服の袖をギュッと握りしめた。



「それ、マジで言ってんの? 冗談なら、笑えねぇぞ……」



「拓人……食べて……」



拓人の首に手を回して、唇を軽く甘噛みする。



拓人の体がビクリと跳ねる。



「きゃっ!」



何も言わず、抱き上げられる。



唯花ゆいかは?」



「え? あ、晶、さんとひよりさんが、見てくれてる……」



突然娘の事を聞かれ、ポカンとしながら答える。



私をゆっくりベッドへ下ろした拓人は、無言でスマホを操作し始める。



「俺だ。唯花を三日間頼む。あぁ、悪いな」



相手が晶さんだというのは分かった。



ん? 三日? え?



何の事を言ってるのだろう。三日も娘を預けるのか。



通話を切ったスマホを近くに置いて、拓人は顔を近づけてくる。



「ちょ、ちょっと待ってっ! 何で三日も?」



「お前が煽って、俺のスイッチ入れたんだからな。しっかり三日間、溜まってたもん、受け止めろよ」



呆気に取られた私の耳元に、唇を近づける。



「覚悟しろ。壊れんなよ? 俺の可愛い奥さん」



体中にゾクゾクと何かが駆け巡り、鳥肌が立つ。



噛み付くようなキス。



口内を隅々まで舌で犯されるようで、こんなキスをされたのは久しぶりで、頭が働かない。



「悪いが、余裕ねぇからな……優しくはしてやれねぇぞっ……」



その言葉通り、ほんとに拓人は容赦がなくて、私は宣言された三日間、嫌という程拓人に愛を注がれたのだった。

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