第18話

水も滴るいい男。そんな言葉が良く似合う綺麗な男が目の前で、優しく笑っているのに、凄く鋭い目で私を見る。



「栞、あなた、処女じゃないわね? 相手は、彼氏? それとも……」



なんて質問をと思ったけど、そのありえない程の勘の良さに、私は絶句するしかなかった。



正直、叔父さんは職業柄よく鼻が効くらしく、昔から匂いで人の変化に気づく事が出来た。だからこそ、私の事をよく理解していた。



叔父さんに、どうしてなんて質問は愚問というやつだ。



「栞から、今は女の匂いがするわ。まさか、変な男じゃないわよね? 無理やりされたんじゃっ!?」



私は昔から変な人に狙われやすくて、誘拐されそうになった事、ストーカー紛いの事があったりと、色々大変だったからか、叔父さんは敏感に反応する。



正直拓人の時も、無理やりだったのは確かだから、少し〝無理やり〟という言葉に体が強ばる。



「匂いが変わったわね。ほんとに無理やりだったの? それならちゃんと対処を……」



怒りを目に宿した叔父さんに、急いで弁解をする。



「ち、ちがっ、違うのっ! た、確かに最初はその……体、から……みたいな、感じだったけど……でもっ……」



「それでも栞の気持ちを無視した事には変わりないだろ」



太く低い声。叔父さんがたまに出す素の部分。私のせいで、叔父さんが怒っている。



「連れてきなさい。その男を。ちゃんと話したいわ」



そう微笑む叔父さんに、先程の怒りは見えなくなっていた。







有無を言わせぬ態度で、叔父さんに言われ、私は緊張する気持ちを落ち着かせる様に、息を深く吐いた。



3年生の教室なんて、初めて来る。



大体は生徒会室かあの温室にいる拓人が、珍しく教室にいるらしく、ゆっくり様子を伺うように開かれた扉から、少しだけ顔を覗かせる。



端の後ろの方に、大きくて目立つ拓人が、女子に囲まれている。ベタベタと纒わり付く女子を隠しもせず、嫌な顔であしらっているのが見えた。



「あれ? 可愛い子発見っ! つか、ちっさ」



「うぉ、マジで可愛い〜。誰に用事?」



「何年生? 1年? 俺だったりして〜」



気づけば4、5人に囲まれ、私は怖くて震えた。



「あ、あの……」



「ん? そんな怯えなくても取って食べたりしないよ?」



「食べたげてもいいけどー」



入口で騒ぐ先輩達に囲まれ、体を固くする私の腰に腕が回され、先輩達の輪から救出される。



見上げると、不機嫌を顔に貼り付けた拓人がいた。



「お前、こんなとこで何してんだ。遊ばれてんなよ」



「拓人……」



「えっ、この子お前の? いいなぁ〜、俺にも貸してよ」



「へ〜、こんなか弱そうな子にまで手ぇ出したのかよ……可哀想に……。ポイされたら俺のとこおいでよ」



「鬼畜じゃん。つか、こんな小さい子に、お前のデカいの、入んの?」



口々に言われた後で、物凄い質問をされた私は顔が真っ赤になるのを感じた。



拓人は低い声で「うるせぇ」と言って、今よりギュッと私をより自分の方へ密着させた。



「ポイするつもりもねぇし、こいつは一生俺のだ。少しでも手ぇ出してみろ。死んだ方がマシだってくらい、徹底的に潰す」



「げっ、マジかよ……」



「へ〜、あの拓人がねぇ……」



「よっぽどいい子なんだなぁ」



興味津々に見られ、拓人の体にしがみつくようにくっつく。



「あぁ、最高だけど?」



いいだろう?とでも言うように、拓人は口角をあげて、勝ち誇ったかのように笑った。



手を引かれ、あっという間に教室から離れる。



屋上へ続く扉の前の踊り場で、座る拓人と向き合うように膝に跨って座る形になる。



「ちょ、何でこんな……」



「離したくねぇんだけど、何? 駄目なわけ?」



駄目というわけじゃないけど、何か恥ずかしい。



「で? 何かあったか?」



「あ、そうだ。あの、ね……実は、叔父さんに、その……バレて……。か、か、かれ、彼氏、を、連れてきなさいって言われちゃって……」



言い慣れない彼氏と言う言葉を絞り出した私に、拓人は少しなんとも言えない笑いを見せる。



「何かいいな、お前に彼氏って言われんの。ちょっとくすぐってぇ……」



私の胸元に頭を擦り付けながら、ふふっと笑う。それが可愛くて、私も釣られて笑ってしまう。



太ももを撫でた手が、スカートの中に入ってくる。



「ちょ、ゃっ……」



「悪い、駄目だ、ヤリてぇ……ヤラせて……」



「拓人っ、ぁンんっ……」



噛み付くようにキスをされ、興奮したように熱い吐息と共に、舌が絡め取られる。



キスをしながらも、射止めるような妖艶に光る誘う視線が注がれた。



「誰かっ、きちゃ……」



「こんなとこっ、誰も来ねぇよ……」



屋上は立ち入り禁止だから、確かに人気は無いけれど、絶対に誰も来ないとは限らないのに、全力で抵抗するには、私の体に灯ってしまった熱は熱すぎた。



抵抗を諦め、私は拓人の首に手を回して、その熱を受け入れた。

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