第19話

重い沈黙。こんなに居ずらい場所がこの世にあるのかというくらい、重い空気が流れていて、私はいたたまれない気持ちで、乾く喉を潤すように紅茶を口にした。



拓人が席に着いた瞬間、自己紹介を慣れたように意外と丁寧にした後、言った言葉が何度も頭でグルグル回る。



「なるほど。栞をお嫁さんに欲しいわけか」



そう。拓人は、私と結婚する気満々なんだという。



「女の子には苦労してなさそうな君が、何で栞?」



「栞だから、ですかね」



当たり前のようにそうはっきり言った拓人が、私に優しく笑いかけた。



「俺は、女癖がいいとは言えませんでした」



「た、拓人っ……」



「この人に取り繕ってもどうせバレる。誤魔化すだけ無駄だろ」



初対面なのに、叔父さんの事をよく分かっている。



「それでも、俺はもう一生栞を手放してやれない。栞だけが欲しいんです」



叔父さんを真っ直ぐ見据え、強い口調で言った。



「そんなに栞が好き?」



「いえ、愛してますね」



目が点になる。



愛? 今この人愛してるって言った?



涼しい顔で拓人が言うと、私はこれ以上ないってくらい顔が熱くなるのを感じ、顔を両手で覆う。



恥ずかしいのに、むず痒いのに、心臓が破裂しそうなくらい波打ってるのに、心が暖かくて、嬉しくてたまらない。



呆気に取られていた叔父さんが、吹き出した。



「あははははははっ! もうダメっ、我慢できないわ、あははは」



不思議そうに叔父さんを見る拓人と、同じく意味が分からず困っている私。



「はぁー、ほんとに何を言うかと思ったら。今の高校生は思い切りが凄いわね。気に入っちゃったわ、拓人君」



口調が戻っている叔父さんは、笑っていた顔を真剣な顔つきになる。



「栞を一度でも泣かせたら、殺すよ? 何があっても一生守って、栞だけを愛する自信と覚悟はあるか?」



「はなからそのつもりですよ」



私を見て、またふわりと笑う。嬉しくて、顔が自然と笑みに変わる。



「許さなきゃ私が姉さんに叱られそうね。分かったわ。ただし、あまり高校生らしからぬ行為は慎みなさいよ? あんたエロそうだし」



「それは無理ですね。栞が可愛いんで、触らないのは無理です。いつでもどこでも欲しくなる」



私の髪を少し取り、そこへキスをする。



今日の拓人はいつも以上に甘い。心臓が持たない。



「……栞も面倒な男に引っかかったわねぇ……。これだけ愛されてるなら、私も安心だわ。でもね、どこでもってのはねぇ……まぁ、程々ってのを覚えないと。それが大人への第一歩だよ、少年。それと、まだまだ子供なんだから、避妊はしなきゃダメよっ!」



「お、叔父さんっ!」



大声を出した私に、叔父さんはまた声を上げて笑った。






意外と呆気なく認められてしまったので、少し拍子抜けしている私を、拓人が後ろから包むように抱きしめている。



晩御飯を三人で食べた後、叔父さんが夜用事があると言って出かけてしまい、拓人と私の部屋へ移動していた。



「お前の叔父さん、いい人だな」



「うん。両親がいない私を、当たり前に引き取ってくれて、仕事が忙しいのに私を優先して、わがままも聞いてくれて、ちゃんと叱ってもくれる。まるで我が子みたいに、凄く大事に育ててくれた。私の唯一の身内で、大好きで大事な叔父さん」



「……妬ける」



「え?」



首筋に軽くキスをされ、背後で拗ねたようにそう呟く。



「あの人に勝つのは難しそうだな……マジで妬けるわ」



「ふふふ、比べる相手がおかし、ンんっ……」



「俺の事だけ見て、俺の事だけ考えてろ。他は許さねぇ」



「……こ、こういう事するの……拓人、だけ、だし……分かってるくせに……ほんと、意地悪っ……」



恥ずかしくなって、顔を背ける。顎を掴まれ、拓人の方へ向かされる。



「分かってるけどさ、お前も俺が欲しいんだって、言われてぇじゃん」



啄むように何度か唇が触れ、誘うように揺れる目から視線が逸らせない。



「栞……」



甘く囁かれ、頭が痺れる。



「拓人……が、欲しぃ……拓人を、私に、ちょーだい?」



「エッロ……たまんねぇ……」



深いキスを何度も繰り返し、お互いの唇を貪り合う。



「っぅん……はっ、ンんっ、っ……」



「はぁ……やべぇな……今日は優しくしてやれねぇわ。余裕ないっ……」



「いいっ、よ……拓人になら、酷くされても、いい……」



「バカっ、煽んなっ……」



全身が熱くてたまらない。早く拓人が欲しくて欲しくて、体が疼いてどうにかなりそうになる。



「して……拓人っ……っねがぃ……」



「やめてって言っても、やめてやれねぇからな、覚悟しとけ」



ベッドへ行くのも煩わしいくらい、拓人に強くしがみつき、唇に食らいつく。



それに答えながらも、拓人は私をベッドへ寝かせて覆い被さる。さすが慣れてる人は違う。分かってはいるけど、ちょっと面白くない。

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