第21話

リビングで待っててもらい、支度が終わり拓人の元へ、少し緊張しながら近づく。



「お、お待たせっ……」



「よし、じゃぁい、くっ……か……」



拓人が振り向き、固まる。



やっぱり気合い入れすぎたかな。変だったのかな。



そんな事をグルグル考えて、いたたまれなくなり、俯く。



無言で拓人が近寄ってくるのが分かる。優しく頬に触れ、顔が自然と拓人を見上げる形になる。



「化粧、してる?」



「す、こし……変、だったかな……やっぱり、落としてきた方が……」



「何で? 必要ない。可愛いな……むちゃくちゃ可愛い……」



真っ赤になっているであろう頬を撫でられる。



「服もよく似合ってる。俺の為にそんな可愛くしてくれたんだろ? 今までどの女にそんなんされても気にした事ねぇけど……やっぱ好きな奴がしてくれんのは、嬉しいもんだな」



照れたようにニカッと笑う拓人に、こちらも嬉しくてニヤけてしまう。



「……反則だろ、その可愛さは……あー、やべぇな……むちゃくちゃヤリてぇ……」



私の肩に額を預け、指を絡める。ドキリとして、体が強ばる。



この人の性欲はどうなっているのか。



「でも今は、ヤんねぇ。せっかくのデートだからな」



絡めた指にキスをし、腕を引かれる。



外に出ると、高そうな車が一台停まっていた。当たり前の様に助手席の扉を開ける。



「ん? どした? 乗らねぇのか?」



「これ、拓人の……車?」



「あぁ。そうか、お前は見るのも初めてだったな」



お前はって言葉に、少しモヤっとする。その気持ちが顔に出てしまったのか、拓人がふっと笑って、私の頭をくしゃりと撫でる。



「女は一回も乗せてねぇ。お前が初めてだ。好きな女しか乗せねぇよ、心配すんな」



ほんとに何でも見透かされてしまう。私がただ分かりやすいだけかもしれないけど、彼の一言一言に気分が浮いたり沈んだり、簡単に翻弄されている自分が凄く単純なのが恥ずかしく、情けない。



促されて、助手席へ乗り込んだ。何故か、花の香りがする。



鼻をクンクンと動かして、匂いの元を探そうとキョロキョロしていると、突然助手席の扉が開く。



「どうぞ、お姫様」



目の前がカラフルな花で埋め尽くされる。いい香りが鼻をくすぐった。匂いはこれだった。



膝まづいて花束を差し出して、拓人が「なんてな」と恥ずかしそうに、白い歯を見せて笑う。



どうしよう……嬉しい……



単純でもいい。私の心臓を痛いくらいに刺激する、目の前の彼が好きだ。柄じゃないと鼻で笑うような、普段の拓人なら絶対にしないであろうクサい事を、当たり前みたいにして見せた彼が、愛おしくてたまらない。



膝まづいている拓人の首にしがみつく。



「あぶねっ……」



「好き」



「っ!?」



よろけながら私を受け止める拓人が絶句した。小さく笑うのが聞こえる。



触れるだけのキスをして、車は発進する。



ニヤける顔を隠す事すらせず、花束を抱きしめる。



「そんなに嬉しいのか? 女って分かんねぇな。まぁ、でもそんだけ喜んでもらえたんなら、やった甲斐があったわ。あー、改めて考えたら、恥ぃな……」



頭を掻きながら、照れているのが可愛くて、笑ってしまう。



そしてふと考える。



「そういえば、免許持ってたんだね。この前の凄い車しか知らなかったから……」



「あぁ、三年に上がってすぐ取ったからな」



普段見ない姿だし、男の人って感じで大人っぽくて、凄く格好いい。恥ずかしいから言わないけど。



他愛もない話をしながら、知らない景色を通って車はいい速度で走る。



少しして、車が駐車場に入って停まる。



車を降りて、手を握られる。



「目、閉じてくれ、連れてくから」



言われた通り目を閉じて、手を引かれて歩き出す。



目を閉じているせいで、目の前が暗くて、見えない事の怖さに自らも拓人の腕に、もう片方の手でしがみつく。



「すぐ着くから、もうちょっと待ってな」



頭をポンとされ、少し安心する。



少しすると、鼻に何か香りが届く。この香りは、花だと思う。



そしてすぐに足が止まり、両肩に手を置かれて、目を開けるように促され、ゆっくり目を開く。



「わあぁ……」



辺り一面が全て花で埋め尽くされている。



物凄い量の花に、一瞬で目を奪われる。



「凄い……綺麗……」



「気に入ったか?」



花から目を離すことなく、何度も頷く。感動で胸が熱い。



花達の醸し出す香りを、めいっぱい空気として体に取り込んでいく。



「栞」



「っ!?」



呼ばれてそちらを向くと、立っていたはずの拓人が跪いている。



「たく、と……何してっ……」



頬が熱を持ち、心臓が早鐘を打つ。



これは、よくドラマ何かでもよく見るやつだ。



「栞、俺と結婚してくれ。一生、俺の隣で笑ってて欲しい」



指輪の入った小箱を手に、真剣な顔で私を見上げる。



手が震え、目頭が熱くなる。



「……はい」



私なんかでいいのかとか、釣り合わないのにとか、色んな思いがぐるぐるするのに、自分の中では答えはもちろん決まっていて、自然とすんなり口から返事が出た。



返事と共に、涙が止めどなく溢れて零れ落ちる。



手を取られ、指輪がはめられる。そして、そのまま指にキスが落ちた。



綺麗な笑顔がこちらを向いた。



「必ず幸せにする。だから、ずっと傍にいてくれ」



「幸せにするんじゃなくて、一緒に幸せになるんだよ」



そう言って、彼に思い切り抱きついた。



勢いに、そのまま二人で倒れ込む。



「愛してる」



「私も、愛してる」



恥ずかしいけど、ほんとの気持ち。



頭にキスが落ち、そのまま唇が塞がれた。



笑いながら二人で立ち上がる。



「こんな時に何だけど、むちゃくちゃヤリてぇんだけど……駄目? お前ん中入りてぇ……」



いいよと言う言葉の代わりに、強く拓人に抱きついた。



そのまま横抱きにされ、車に乗り込んだ。



「今すぐ入れてぇけど、さすがに、車とかじゃなんだしな。ちょっと移動すんぞ」



近くに別荘があるらしく、そちらへ向かうように、車を発進させた。



初めて抱かれるかのように、心臓が凄く大きな音で鳴った。

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