第27話

辰巳君が生徒会に姿を見せなくなってから、数日が経った。



あんな事があったから、当たり前だと思っていたから、私は何もしなかった。



何もしちゃいけない。するべきじゃない。



その間に、生徒会にも一気にメンバーが増えた。



明るくて爽やかなスポーツ少年、同じ三年生の男子、加川理かがわさとる君。



小柄でふんわりとした可愛らしい癒し系、二年生の女子、美影冬和みかげとわちゃん。



真面目で凛としたクールビューティーなしっかり者、一年生の女子、原田明菜はらだあきなちゃん。



長身で物腰柔らかな笑顔が似合うイケメン、同じく一年生の男子、東道成和とうどうなりかず君。



「好きです。俺と付き合ってくれません?」



そんな言葉が聞こえ、みんなが固まった。



もちろん、告白された人が一番驚いているだろう。



相変わらず柔らかな笑顔で微笑む東道君、そして告白された本人、樹君。



なんの状況だろうか。



冬和ちゃんは顔を赤くして少し楽しそう。明菜ちゃんは呆気に取られ、理君は口をパクパクしている。



樹君は、無表情で東道君を見上げたまま固まっていたけど、次第に眉間に皺を深く刻んでいた。



「君は僕が男に見えないんですか? 視力が馬鹿なのか、頭が馬鹿なのか、どっちなんですか?」



「男って分かって言ってますよ? ちなみに俺は視力もいいし、馬鹿でもないですよ。成績いいし。先輩にも釣り合うと思うんですけど」



変わらない笑みを貼り付けて、東道君は爽やかに言ってのける。



変な空間に迷い込んだような感覚。



気まずい。



誰か、助けてください。



「ちぃース……って、あれ? 何この空気……」



突然現れたのは辰巳君だった。



久しぶりに見る彼は、少し大人びて見えた。



彼が私に歩み寄る。



「えっと……す、すんませんでしたっ!」



今度は私がびっくりする番。



頭が下げられ、咄嗟に辰巳君に触れる。



「ちょ、辰巳君っ、やめてっ! 頭、上げてっ」



「いやっ、やっぱりちゃんとケジメつけたいんで。先輩、俺を思っきり殴って」



真剣な顔で言われ、首を横に振る。



「でき、ないっ、できるわけ、ないよ……」



「でも、絶対、あんたの彼氏は殴りたかったはずだし……」



苦笑して俯く辰巳君に、私は胸が痛くなる。



静寂の中、口を開いたのは樹君だった。



「東道、アイツを殴れ」



「……は?」



驚いたのは、東道君。先程までの爽やかな笑顔はどこへやら。



「殴れば、さっきの事、考えてやらなくもない」



いつの間にか敬語が取れていて、不機嫌そうな顔なのに、少し笑っていた。



前向きな返事を貰えたからか、東道君は先程よりもっといい笑顔を貼り付けた。



「その言葉、忘れないで下さいよ、樹先輩」



「気安く呼ぶな。会長と呼べ」



「はいはい、会長殿」



ニコニコしながら、何が起こっているのか分からない顔をしている辰巳君に近づく。



「君に恨みはないけど、俺の愛しい人の頼みだから、悪く思わないでね」



「あ? 何言って……っ……」



耳を塞ぎたくなる容赦ない音がして、辰巳君の体が揺れた。



「ったぁ……さすが不良君。頑丈だね」



「ってぇ……お前、そんなヒョロヒョロに見えて力強ぇよ……」



「見た目より鍛えてるからね、俺」



なんか凄く仲良しだ。



「つか、会長は何でそんな部外者に……」



「はぁ? 何言ってるんです? 君を殴ったら、彼女の手が痛いでしょ? やっぱり馬鹿なんですね、君は。本当は僕が殴りたいんですが、僕も痛いのは嫌なので」



「俺が痛いのはいいんですか?」



むくれる辰巳君に、苦笑する東道君。



東道君に視線を向け、樹君は当たり前のように意地悪く笑う。



「僕が好きなら、その痛みくらいどうってことないだろ? それとも、お前の好きは、その程度か? だったら、諦める事だ。僕はそんな簡単な相手じゃない。軽く見られては困る」



椅子に座り、仕事を始める樹君。



私達もそれに習って仕事に戻る。



その途中、東道君が楽しそうな顔をしたのを見て見ぬふりをした。

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