第28話

生徒会メンバーも揃って、平和を取り戻して、特に何事もなくあっという間に数ヶ月が過ぎ、慌ただしくなった二学期の後半。



最近、あまり気分がよくないことが多かった。今日は一段とすこぶる気分が優れなかった。



頭が痛くて、熱っぽくてぼんやりして、眠気でフラつく。



気分が悪くて、ダルい体を引きずるように歩く。



「風邪、かなぁ……」



保健室で薬を貰おうと思い、向かう途中で私の意識は途切れた。



目を覚ました時は、保健室にいた。



静かな部屋。今が授業中だと分かる。



まだぼんやりするけど、気分はだいぶマシだった。



とにかくまだ眠くて、もう一眠りしようと目を閉じる。



扉が開き、足音が近づいてくる。



眠くて目が開けられない。



カーテンが開かれ、鼻をくすぐる香り。



覚えがある香り。



それだけで気分がよくなる気がした。



頭に大きな手が置かれ、撫でられる。



「……拓人……」



「ん? よく分かったな。起こしたか? 気分は?」



「大丈夫……わざわざ、来てくれたの?」



優しく囁く低い声。落ち着く。



撫でる手が心地よくて、眠気が我慢出来なくなる。



顔を見たいのに、声を聞きたいのに。



起きていられない。



「た、と……そ、にい、て……」



「ちゃんといてやるから、ゆっくり休め」



それを聞いて、私はまた意識を手放した。



次に目を覚ましたのは、夕方になってからだった。



拓人がいなくて、急に不安になる。



「たく、と……ど、こぉ……」



涙が滲む。



病気の時は心細いっていうけど、まさに今寂しくて、早く抱きしめて欲しい。



涙を流しながら愛しい人の名前を呼び続ける。



扉が開いて、少し小走りの足音が聞こえる。



「栞っ! どうしたっ!? 辛いかっ!? どっか痛いのかっ!?」



「っ、そばにっ、いるって……ぃった……」



「っ! あ、あぁ、電話してた。悪い」



頭を優しく撫でる手を取り、手を抱きしめる。



「甘えたなお姫様だな」



ふっと笑った声が聞こえ、ベッドが軋んだ。



隣に温もりが入ってきて、簡単に私を抱きすくめる。



「まだ辛いなら、とりあえず家連れて帰るが、どうする?」



「拓人の、とこ……いく……」



頭の上でまたクスリと笑って「仰せのままに、お姫様」と優しい声が聞こえた。



拓人の腕に抱かれて移動し、車に乗せられて拓人の家へ向かう。



車中でも眠気に負けて、少し眠っては起きを繰り返す。



風邪にしては、なんか変だ。



直感でそう思ってハッとする。



よく分からないけど、風邪じゃないという事と、様子がおかしいのは分かる。



今は何も考えたくなくて、複雑な気持ちで車の心地よい揺れに身を任せた。



拓人の部屋のベッドへ体を沈めると、拓人の匂いに包まれる。



安心する。好きな人の匂い。



ずっとここにいたい。



「早く……拓人の、お嫁さん、に、な、りたぃ……」



「ん? どした?」



小さく呟いた言葉は、拓人には聞こえない。



なんでもないと首を振る。



今言っても、困らせるだけだから。万が一困らなくても、優しくそうだなと言ってくれるってわかってる。



スーツを脱いで、部屋着に変わった拓人が戻ってくる。



「お前も、制服皺になるから、それ脱いでこれに着替えろ」



「脱がせて……」



「っ、バカっ……エロい言い方すんな」



呆れたように言っても、優しくしてくれるから、甘えてしまう。



「体、まだ熱いな。病院、行くか?」



「大丈夫。寝たい……」



用意された服に着替え、水を飲み、ベッドへ沈み込む。



明日、病院へ行こうと決めて眠る事にした。

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