エピローグ

第30話

無事卒業した私は、拓人の決めたスケジュールで、あっという間に結婚式を挙げ、その足であっという間にハネムーンに強制連行され、あれよあれよという間に時が経つ。



「駄目……もうヘトヘト……」



「ご苦労さん。お前はここでちょっと休憩しとけ」



綺麗なドレスを着せられ、パーティーなるものに出席していた。



拓人の継ぐ会社のパーティーである。



後から聞いた話だけど、拓人のお父さんが婚約者を用意していたらしく、それを拓人が当たり前のように断り、何をどう言ったのかは教えてくれなかったけど、お父さんを簡単に黙らせたのだという。



「お前と一緒になる為なら、俺はどんな手でも使う。俺に不可能はない、なんてな」



そう言って笑った拓人の顔は、まるで悪魔の様だったのを覚えている。



凄い人を旦那さんにしたなとつくづく思う。



慣れない環境に疲れて、壁側のイスに座っていると、グラスが差し出された。



「ソフトドリンクだから、飲めるわよね?」



「し、忍ちゃんっ!?」



シックなドレスに身を包み、私にドリンクを差し出したのは、忍ちゃんだった。



何でここに、と問う前に忍ちゃんが私に一礼する。



訳が分からない。



「栞様、私、葛城忍は拓人様の秘書をしております。以後、お見知り置きを」



手を取られ、手の甲にキスをされる。



女の子なのに、格好よくてドキリとする。



「秘書? え?」



「もう一つ驚かすなら、断られた婚約者でもあります」



言葉が出なかった。



腰に手を当てて「私、優秀だからね」と笑う。



「体調どう? 疲れたでしょ?」



「あ、だ、大丈夫。あの……婚約者って……」



私の疑問に、ウンザリしたような顔で口を開いた。



「優秀で次期社長のそばにいて、まぁまぁの家柄ってだけで勝手に決められたんじゃ、たまったもんじゃないわ。いい迷惑よ」



凄く凄く嫌そうな顔でそう答える。



「私は栞が婚約者ならすぐオッケーしたのに」



セットされている髪から垂れる横髪を手に取り、口付ける。



まるで口説かれているような気分になり、照れてしまう。



「おら、人の嫁を堂々と口説くな」



引き寄せられて、立ち上がる。



「もう帰ってきたんですか? 別に一生帰って来なくてよかったのに」



満面の笑顔でそういった忍ちゃんに、拓人は「口の減らねぇ女」と言って、ふんと鼻を鳴らした。



仲が悪いのか。次期社長と秘書という間柄で、仮にも元婚約者だったのに。



二人をただ見ていると、二人が同時にこちらを見た。



「まさか、私達の仲を心配してないわよね?」



「やめろよ、気持ち悪ぃ」



「こっちのセリフだってのよ。私は栞一筋だからね」



「だから俺の嫁だっつんだよ」



ギャーギャーと二人が言い合いをしている間に挟まれて苦笑していると、聞き覚えのあるため息が聞こえる。



「あなた達はほんとに成長しないんですね、二人して」



タキシードを着こなした樹君だった。



「えっと……樹君は、どうして?」



「あれ? 言ってなかった? 僕はここの社員だよ」



しれっと言ってのけた樹君に、また苦笑する。



凄く賑やかな職場になりそうだなぁと思った。



パーティーも終わりを迎え、私は拓人の車の助手席に乗ってウトウトしていた。



「着いたぞ、栞……」



「ん……」



「いい、寝てろ。運んでやるから」



助手席に移動した拓人が私を抱き上げる。



大好きな匂いに包まれる。



ベッドへ下ろされ、ドレスをゆっくりと脱がされる。



素早く着替えさせられ、布団にくるまる。



「お疲れさん。ゆっくり休め。おやすみ」



「拓人も……お疲れさ、ま……おや……す……」



言い終わらない間に眠りについてしまう。



頭を優しく撫でられ、頭にキスが落ちた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る