第24話

生徒会室にて、私は只今固まってます。



「メンバー募集してたろ?」



金髪の頭を黒くし、ピアスの数が一つに減り、制服も着崩しがマシになっている一年生がそこにいた。



「辰巳、君……」



「君は僕が言った事が分からなかったんですか? 日本語分かります? それとも馬鹿なんですか?」



呆れたように言った樹君の言葉を聞いているのかいないのか、辰巳君の目は私だけを見つめていた。



射抜くようなあの目は、少し怖い。



目を逸らし、樹君の近くに下がる。



「別に生徒会入りたいって希望出してるだけじゃん。メンバー募集してんだからいいじゃん」



辰巳君は希望の紙を樹君に渡し、部屋を出ていった。



物凄い重いため息を同時についた私と、疲れたような樹君の視線がぶつかる。



「君はつくづく面倒な男に好かれる子だよね。ここまで来たら、もう逆に清々しいというか、哀れというか……ほんと、可哀想だね」



完全に馬鹿にしたように口角を上げて笑う樹君に返す言葉がなく、苦笑するしかなかった。



「とりあえず、僕がいない時は彼には隙、見せないで。後、絶対前会長には知られないように。知られたら助けようにも、僕にはどうにも出来ないから」



「わ、分かったっ!」



まるで悪い相談でもするように、二人で秘密の約束を作る。



これすら拓人に知られるとマズいのは分かる。



でも、迷惑とか、心配とか、かけちゃ駄目だ。



ちゃんと、自分で切り抜けなきゃ。拓人にばっかり頼ってちゃ、駄目だ。



「とか言いながら、樹君には頼りっきりで、迷惑ばっかりかけてるんだけど……ダメダメだな、私……」



廊下を歩きながら考え事をしていると、手を掴まれて引き寄せられる。



「よし、捕まえたっ!」



後ろから抱きしめられる。



ほんとに、つくづく自分が嫌になる。



こんな所を拓人に見られたらと思うと、考えるだけで恐ろしい。



「た、辰巳君、あのっ、離してっ!」



「離すかよ。せっかく一人のとこ捕まえたんだから。毎回毎回会長とくっついてっから、話もできやしねぇ」



ほんとに拓人がいなくてよかった。



抱きしめられているのに、それだけしか、私の頭にはなかった。



何とかしなきゃ。



「話しくらいならするから、とにかく離して」



できるだけ冷静に言葉を話す。



意図も簡単に手が離れた。



「つか、まぁ、最初に迫った俺も悪ぃ、けどさ……」



気まづそうな顔で、頭を搔く辰巳君。



やっぱり普通にいい人ではあるんだなぁと改めて思った。



またこんな事を思ってるなんて分かれば、樹君が呆れるだろうなぁと考えたら少し笑えた。



「何笑ってんだよ」



「あ、ごめんね。辰巳君ていい人なんだね」



私の言葉に驚いたように目を見開く辰巳君が、少し赤くなった。



「は? いや、何言ってんだよ。あんた、馬鹿かよ……」



「ふふ、そうかも」



少しふっと柔らかく笑った辰巳君に、疑問を向ける。



「ほんとに生徒会、入るの?」



「まぁ、な。ガラじゃねぇし、真面目でもねぇけど、ちょっとでもあんたのそばに、いてぇし、さ」



照れているのか、頬が少し赤い。少し年相応の顔を見せた辰巳君が、可愛いと思ってしまった事はここだけの話。



「動機が不純だね。会長はそういうの許さないかも」



意地悪を言っているのは分かっている。けど、樹君はほんとにそういう人だ。



とりあえず生徒会の仕事や決まりの書いた紙を渡し、私は教室へ戻った。



三年になって、新しい友達も出来た。



凄く綺麗で、背が高くて、ショートカットで、大人で格好いい女の子。



葛城忍かつらぎしのぶちゃん。



「遅かったね。また樹?」



笑いだけを向けて、私は忍ちゃんの席の後ろに座る。



忍ちゃんは頭もいいし、運動も出来て、明るくて、何よりやる事が男前なので、女子ファンが多い。



そんな子が、何で私なんかと友達になってくれるんだろう。



「なんかあった?」



「忍ちゃんには、隠し事できないね」



忍ちゃんは鋭い。いつも私の小さな変化に気づいてしまう。



ほんとに只者じゃないなぁとしみじみ思う。



辰巳君の話をしたら、忍ちゃんが少し難しい顔をして、私は首を傾げた。



「どう、したの?」



「え? あぁ……あんたの彼氏がいなくてよかったなぁって」



拓人は元々有名人だったし、私と付き合ってからの様子も、色んな意味で有名だった。



だから、誰でもそう思うんだろう。



女を取っかえ引っ変えしていた遊び人で、特定の相手を作らない帝王が、後輩の女を溺愛し、恐ろしいくらいにご執心だ、と。



そんな噂を初めて忍ちゃんから聞かされた時には、顔を赤くしたのを覚えている。



辰巳君の事を考えると、拓人がここにいなくてよかったと思う。



だけど、改めて拓人がこの学園にいないんだと思うと、寂しい。会いたい。



拓人との思い出を巡らせながら、少し体が熱くなるのを感じている私も、だいぶ重症だなと笑った。

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