第10話

あまりのデカさに、圧倒されながら、会長に手を引かれながら、大きな建物に入っていく。



エレベーターに乗っている時も、会長は口を開かない。



私は握られている手首を一瞥し、会長の横顔をただぼんやり見つめていた。



玄関で靴を脱ぐ時間すらもらえず、半ば靴が勝手に脱げる形で玄関に転がる。



そのままベッドへ投げられる。



「ゃっ……」



「黙れ」



低く脅すような声と、鋭く刺さるような目に、体が縮こまる。



頭の上で両手を拘束され、噛み付くようなキスが襲う。



「ぅんンっ! んんっ、ンっ、は、んンっ……」



乱暴に暴れ回る舌に、涙が滲む。



「泣くな。お前が売った喧嘩だろ。自分から挑発した責任、しっかりその体で取れよ。そのくらいの覚悟があって、俺に喧嘩売ったんだろ?」



「ちがっ……」



「どっちにしろ俺は、お前が俺の知らないとこで、簡単に男に触られてるってだけでイラついて仕方ねぇってのに。マジでふざけんなよ。お前は俺のだっつったろ。俺の許可なく勝手に触らせてんじゃねぇよ」



まるで所有物みたいな言い方に、また涙が出る。



愛されてるなんて、おこがましいけど、優しく甘やかしてくれる会長に、少し期待してる自分がいなかったわけじゃないけど、こんな言い方は、悲しすぎる。



「っ……めて……」



「うるせぇ……。お前に拒否権なんかねぇんだよ。大人しく俺に鳴かされてろ」



耳を舌で舐めあげられ、ゾクゾクと体に走る感覚に、体が喜んでいるのが分かる。悔しいけど、私はやっぱり会長が与える快楽に、弱い。弱すぎる。



「泣き顔にすら欲情するとか、自分でもビックリだな」



深く探るようなキスに頭が痺れ、会長の言葉を聞き入れる余裕がない。



慣れた手つきで私の腕をリボンで縛りあげる。



抵抗は無駄。だけど、やっぱり素直に受け入れるのもまた違うから。逃げるように身を捩る。



「ほんと、お前も意外と頑固だよな。まぁ、お前が抵抗したとこで、やめねぇけどな。言っとくが、優しくしてもらえると思うな」



会長の目が妖しく光る。ゾクリとした感覚に、私は目を背けた。



シャツが乱暴に引き裂かれ、ボタンが捌ける。怖くてたまらない。



まだ慣らされてもいないそこに、会長の長い指が挿入される。



「ぃあぁっ! っ……」



涙が溢れ出て、痛みに唇を噛む。



「痛いか? この痛み、よく覚えてろ」



そう言ってまた指を増やされ、体が痛みに固くなる。



なんの時間なのか。こんなの酷すぎる。



私が悪いわけじゃないのに。私が触って欲しくて触られたわけでも、気に入って欲しくて気に入られたわけじゃない。



不満と怒りが涙をどんどん溢れさせ、止まらない。



「っらい……嫌いっ……」



「あ?」



「会長っなんかっ……き、らいっ!」



会長の動きが一度止まる。しかし、すぐにまた動き出す。



「……そうかよ」



少し悲しそうに呟く会長を、気遣う余裕など私にはない。



痛かっただけの会長の指が、私を知り尽くした会長の指が、私の快楽を呼び覚ますかのように、気持ちのいい場所を探し当てる。



「んああぁっ、ひ、あぁっ……やだっ、や、そこ、やぁ……」



「嫌って事ねぇだろ。そんな可愛い声出しちゃって、そんないいのか?」



まだ濡れ始めて完全ではないそこに、会長の大きな昂りが突き入れられ、私は息を吸い、声にならない声を上げて痙攣する。



「くっ……っ、嫌いな奴に触られて、犯されて、ヨがってるなんて、ほんとっ、お前、淫乱だなっ……」



「あぁあっ、あっ、んっ、は、あぁ……」



乱暴に揺さぶられながら、強く押し寄せる快感の波に、何度も体を痙攣させる。



―――ガチャ。



同じような経験をした事がある。



そう思った時、見知った顔が視界に入る。



「まったく……会長。僕は貴方の召使いでも何でもないんですよ? こんなくだらない事で僕を使うのやめてください」



そう言いながら、生徒会メンバーであるこの人は、前と同じように、この状況をまるで気にも止めずに、二人分のカバンをソファーに置きながら淡々と話す。



「まぁっ、そう言うな。お前に、はっ、感謝してるっ……て……はぁ……」



笑いながら、会長は荒い息呼吸をする。



「では、今後こういう事はなるべく控えてくださいね。それと、あなた」



突然、私に話しかけて来た事に驚きながらも、会長が動くのをやめずにいる為、私は返事にならない返事をする。



「ひっ、んっ……はっ、ぁあ……」



「あまり会長を怒らせないでくださいね。面倒を被るのはこちらなので」



さほど興味がないような顔で私を一瞥すると、彼は「では、失礼」と去っていく。



来る時も去る時も、会長の動きは止まることなく続いている。この人には、周りで何が起ころうと、自分がしている事が優先で、自分のしている事が全てなのだろう。



「ひっ、あああっ!」



「っ……何? 他の事考えてんの? えらく余裕じゃねぇか……ん?」



ぼやっと考えている時、思い切り最奥を突かれ、頭がビリビリする。



そのまま奥をしつこく突き上げられる。



「やぁあっ、ああっ、あっ、激しっ、んっ!」



「考え事するくらい余裕ならっ、もっと、激しくして、もっ、いけるよ、なっ!」



同じ場所を何度も何度も突かれ、私は絶頂を繰り返す。



そこまで怒るような事を言った覚えはないのに、酷すぎる。



この人は、どこまで私に快楽を与え続けるのだろう。



こんなの、与えられたところで、意味なんてないのに。



どうせ、そのうち飽きて捨てられるのに。それなら、もう早く解放して欲しい。



これ以上、溺れたくないのに。



「っ、んっ、さいっ、て……」



「っ……ぁ? なんだっ……はぁ……」



「だいっ……きらっぃ……っ……拓、と、なんっか……嫌いっ……」



悔しくて、辛くて、ずっと「嫌い」と繰り返し、涙を流す。



ずっと続く快楽の波に乗り続け、いつまでも続く行為は、翌朝になってやっと終わりを告げた。



正直後半はほとんど意識はなかった。それでも私は、どれだけ甘く名前を囁かれて、優しく触られても、会長の名前を呼ぶ事も触れ返す事もしなかった。



せめてもの抵抗だった。



疲れているはずなのに、そこまで深く眠っていなかったようで、頭がすっきりしないまま目が覚めた。



「さむ……」



隣で綺麗な顔が静かな寝息を立てていた。



「……最低男」



自分にしか聞こえないであろう声で呟き、散らかされた自分の下着や服を拾い上げ、身につける。



「新しいの、用意しなきゃ……」



そう言ったら、また涙が出た。



「最悪だ……っ……」



まだ違和感のあるお腹を一撫でし、カバンを持って素早く部屋を出た。



朝の少し寒い風に体をブルリと震わせる。



幸い、明日は休みだ。会長に会わなくてすむと思うと、少し力が抜けた。



ほとんど人のいない道をゆっくり歩いて、家路に着く。その頃には、涙は止まっていた。

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