第34話「胸騒ぎ」エリオット視点
エリオット視点
カルディス伯爵と仕事の話を終え、アメリー様を待たせていた場所に戻ってきた。
しかしそこに彼女の姿はなかった。
「待っていてくださいと言ったのに、あの人は……」
アメリー様は俺のことを、人懐っこい仔犬か何かだと思ってるフシがある。
だけど、あの人だって待てができない 仔犬みたいなところがあるじゃないか。
会場内の人をかき分けアメリー様を探していると、懐かしい人に声をかけられた。
「エリオット、どうしたのそんなに慌てて」
俺のことを呼び捨てにできる人間は限られている。
両親と王太子殿下とそれから……、
「姉上、来てくださったのですか?」
実姉であるロクサーヌだ。
「弟の晴れ舞台ですもの当然ですわ。
それにしても随分落ち着きがないわね?
何かあったの?」
姉上なら話してもいいだろ。
「実は……」
アメリー様が姉上と一緒にバルコニーに行ったあと、
同じ場所で三人の令嬢に絡まれたこと、
待っていてくださいと伝えてカルディス伯爵と仕事の話してる間に、
アメリー様がいなくなっていたことなどを伝えた。
「それは確かに心配ね。
アメリーは理由もなくふらふらとどこかに行く子ではないわ」
「どこかでまた、トラブルに巻き込まれていないと良いのですが……」
あの方はトラブルホイホイなところがある。
俺があの人の側にいて、見守っていなければならなかった。
こんなことになるなら、カルディス伯爵と新商品の話などするのではなかった。
「旦那様、別室でお客様がお見えになっております」
その時家令に話しかけられた。
「後にできないのか?
今は手が離せない」
「それがお客様というのは王太子殿下でして、それも奥様について取り急ぎ お伝えしたいことがあるそうです」
家令が僕の耳元で囁いた。
殿下がアメリー様について、急ぎで伝えたいこと?
何か嫌な予感がした。
「分かった。
すぐ行く」
俺は家令に短く返事をした。
「エリオット、何があったの?
お客様とはどなたでしたの?」
「姉上、殿下がいらっしゃっています。
アメリー様について俺に話したいことがあるようです。
俺はしばらく席を外します」
姉上と話していたから、ついいつものクセで彼女の名前に「様」をつけてしまった。
「火急のご用件なのね。
なら私も行きます」
「はいっ?」
「親友の私が話を聞いた方が、わかることがあるかもしれません。
殿下も私に対して、出て行けとはおっしゃらないはずです。
さあ参りましょう。
部屋はどちらかしら?」
姉上はおっとりしてるように見えて、こうと決めたら譲らないところがあるからな……。
殿下は姉上に弱いから、姉上を同伴しても追い出されることはないだろう。
問答している時間がもったいないので、俺は姉上とともに殿下が待っている部屋に向かった。
◇◇◇◇◇
「待っていたよエリオット。
これはロクサーヌ様も一緒でしたか。
お久しぶりです」
「お待たせして申し訳ありません」
「お久しぶりですわ、殿下」
殿下はパーティー会場と同じフロアにある応接室にいらした。
「エリオット、ベルフォート公爵夫人の姿が見えないが今どこに?」
「それが先ほどから姿は見えないのです。
今使用人に探させているところです」
「遅かったか……!」
殿下が悔しそうにつぶやいた。
「殿下何があったのですか?
俺に急いで伝えたいことというのは?」
王太子相手に失礼かもしれないが、つい気持ちが急いて殿下を質問攻めにしてしまった。
「エリオット、君は知っているかい?
王都で最近未婚の貴族女性を襲われる事件が多発しているのを?」
「そんなことが起きていたとは、知りませんでした」
「知らないのも無理はない。
被害者は貴族の令嬢で、取られたものもなければ、体に傷をつけられたわけでもない、いたずらされた形跡もない。
なので醜聞を恐れた家のものが被害届を出さなくてね。
事件が難航していたんだよ」
「そうだったのですか」
貴族女性にとって体に傷をつけられなくても、襲われたという事実だけで十分な痛手だ。
下手をすると傷物扱いされ、一生結婚できないかもしれない。
事件を公にしたくない、被害者と被害者の家族の気持ちもわかる。
「根気強く捜査を続けて、あることがわかった。
先ほど僕も知ったばかりなのだが、襲われた女性には共通点があったんだ」
「共通点ですか?」
「そう一件目の被害者はアマンダ・ハリス子爵令嬢。二件目の被害者はアミーナ・ハモンド男爵令嬢。三件目の被害者はアミシャ・ハーレイ子爵令嬢」
「全員イニシャルが『A・H』ですね」
「そして全員、茶色の髪に黒い瞳をしていた」
イニシャルがA・H で茶髪に黒い瞳の 貴族女性……その時俺の脳裏に、俺の一番愛しい人の顔が浮かんだ。
「アメリー様の結婚前の名前は、アメリー・ハリボーテでした。
イニシャルはA・Hで、彼女も栗色の髪に黒い目をしています」
嫌な予感がする……!
どうかこの予感は当たらないでくれ!
「僕もそれに気づいたから、こうして君に会いに来たんだよ。
ベルフォート夫人から目を離さないように伝えにね。
だけど少し遅かったようだね。
これは僕の推測だけど、彼女たちの愛称は全員『アミー』だったんじゃないかな?」
「そういえば以前アメリーが話していました。
子供の頃父親から『アミー』と呼ばれていたと……」
「情報を整理しよう。
犯人はアミーと呼ばれる茶髪に黒い目の女性を探していた。
彼女たちは全員黒髪に赤い目の男に声をかけられ、その後の記憶がなく、気がついたら裏路地に倒れていたと証言している。
そしてなぜか発見されたとき、彼女達の右腕の袖だけが破られていた」
殿下の話を聞いて心臓がドキリとした。
アメリー様の右腕には痣がある。
犯人がその痣を探していたとしたら……。
「アメリー様の右腕には……花柄の赤い痣がありました……」
「それは本当かいエリオット?
その話が事実なのだとしたら、犯人は狙いはベルフォート公爵夫人だ!」
嫌だ、認めたくない!
犯人の狙いがアメリー様だったとしたら、彼女はもう……!
「俺もう一度、会場を探してきます!」
「落ち着いてエリオット!
あなた今公爵なのよ。
そして今日のパーティーの主役なの。
そのあなたが額に冷や汗をかきながら、アメリーを探していたら、周りの人間はどう思うかしら?」
夫婦間に何かあったのではないかと、勘ぐられるだろう。
下手をすると、アメリー様の醜聞につながりかねない。
「そんなことは分かっています!
だけど今はそんなことより、アメリー様を探し出すことが優先です!」
今は何かせずにはいられなかった。
「あのね、エリオット君。
パーティーが終わったら君に伝えたいことがあるんだ」
そう言ってはにかんでいた彼女の顔が頭から離れない。
アメリー様は俺に何を伝えようとしたんだ?
こんなことになるなら聴いておけばよかった!
俺が部屋のドアを開けようとした時、家令が部屋に入ってきた。
「旦那様、少しよろしいですか?」
「悪いが今は取り込み中だ。
話なら後で……」
「奥様の事で重要なことが分かりました」
「何だ!
何でもいい!
アメリー様の所在についてわかったことがあるなら話してくれ!」
俺は執事に腕を掴み、彼の体を揺すった。
「アメリー様について知っていることがないか、使用人全員に聞いて回りました。
その結果あることが分かりました。
奥様はイリオス侯爵令嬢と会場で話しているところを目撃されています。
奥様は彼女に手を引かれ、会場を出て行ったとボーイが証言しております」
イリオス侯爵令嬢、またあの女が何か関わっているのか!
こんなことになるなら、あの時あの女の両手両足を縛って、屋敷から放りだしておくんだった!
「それで、イリオス侯爵令嬢は今どこにいる?」
「控室で倒れているところをメイドに発見されました」
「分かった!
案内しろ!」
俺は家令の後について部屋を飛び出した。
応接室に殿下を残してきてしまったこととか、殿下に挨拶もしないで飛び出してしまったこととか、その時は考える余裕がなかった。
◇◇◇◇◇
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