四度目の婚約破棄〜妹と弟に婚約者を奪われ行き遅れた私は、年下の美少年公爵令息に溺愛される

まほりろ

第1話「四度目の婚約破棄!?」



「アメリーすまないが、君との婚約を解消したい」


彼の第一声を聞いたとき、脳裏に浮かんだのは「あっ、またか」だった。


私の名前はアメリー・ハリボーテ。伯爵家の長女で22歳。


22歳というのは貴族令嬢としては結婚適齢期ぎりぎり、いえ若干行き遅れている。


私がこの年まで独身でいたのには理由がある。


私には三人の妹がいる。


次女のヘレナ、三女のクラリッサ、四女のイザベラ。


最初の婚約者のメンクーイ侯爵令息は、次女のヘレナに取られ。


二番目の婚約者のフシアナ伯爵令息は三女のクラリッサに取られ。


三番目の婚約者のミエハリ子爵令息は四女のイザベラに取られた。


妹達は全員母親譲りの金色の髪に青い目の美少女。


対して私は父親譲りの茶髪と黒い目、父親譲りの地味な容姿。


両親は昔から器量の良い妹たちを溺愛していたので、「婚約者を取られるお前が悪い」の一点張り。


婚約破棄される度に、婚約者の家のランクは下がっていき、現在婚約中のゲッス・グッズー様は男爵家の長男。


侯爵家の嫁にと望まれていたのが遠い昔のことのよう。


だからゲッス様に婚約解消と言われても、全く驚かない。


今までの婚約者は「貴様との婚約を破棄する!」と一方的な言い方だった。


大方、彼らは妹達に私の悪口でも吹き込まれていたのでしょう。


ゲッス様は婚約「破棄」ではなく「解消」と言ってくれたし、最初に「すまない」と謝ってくれた。


そんのことにすら好感を持ってしまうなんて、度重なる婚約破棄で私も相当病んでしまったようだ。


「婚約解消の件は了承いたしました。もしよろしければ解消する理由をお聞かせねがえますか?

 もしかして真実の愛を見つけた……とか?」


「そうなんだ!

 君には悪いと思うが他に好きな人ができてしまったんだ!」


やっぱりこのパターンか。


「もしかしてそのお相手は私の身内ですか?」


「凄いな! そんなことまでわかるのか!?」


やっぱりというか、がっかりというか、またそのパターンか。


でもお相手は誰だろう?


妹は全員嫁に行ったし、いとこのブリジッタはまだ七歳だ。


もしいとこのブリジッタがゲッス様の真実の愛の相手だとしたら、ゲッス様はロリコンということになる!


そういえば、私はゲッス様とは手すら繋いだことすらなかった。


奥手なのかと思っていたが、彼がロリコンだったからだとしたら納得がいく。


七歳の少女に懸想するとか気持ち悪い。


「実は僕は成人女性には興味がなくて……」


ゲッス様の突然のカミングアウト!


ゲッス様のロリコン説の信憑性が増してきた。


ブリジッタはまだ七歳。二人が相思相愛だったとしても、結婚を認める訳にはいかない。


「ゲッス様、落ち着いてください。そこはブリジッタの成長を待って……」

「実は僕は君の弟のカシウスを愛してしまったんだ!!」


私の言葉にゲッス様が自身の言葉を被せてきました。


ゲッス様はロリコンではなく、同性愛者だった。


そうきたか〜〜。そういうパターンか〜〜。


疑ってごめんよ、ブリジッタ。


私は心の中でいとこに謝罪した。


私には弟が一人いる。


名前はカシウス、彼は当家の次男で金髪碧眼の美少年。


幼少の時から女の子より可愛いと言われて育った。今年貴族学園を卒業したばかりのピッチピチの十八歳だ。


「カシウスは男です。男同士の結婚になりますが……」


ゲッス様は男爵家の嫡男、いくら愛があっても男同士では世継ぎは望めない。


ゲッス様がカシウスと結婚するのは構わない。だがその場合、男爵家の跡継ぎ問題はどうなるのだろう?


「そのことなら問題ない! カシウスと結婚することについて、僕の両親と君の両親に話して、既に結婚の許可をもらっている!」


既に家の両親にも根回しをしていたとは思わなかった。


男同士の結婚を認めるとは、グッズー家の当主は考え方が柔軟なようだ。


「そうですか、既に両家の許可が出ているなら、私が申し上げることはございません。どうか末永くお幸せに……」


「待ってくれ! 本題はここからなんだ!」


これ以上まだ何かあるというんですか?


婚約者と両親と弟に裏切られ、私は今とても疲弊している。用件があるなら手短に済ませてほしい。


「カシウスは美人だ! 女の子より可愛い!」


「そうですね」


のろけ話ならよそでしてくれないかな?


「だがどんなに綺麗でも、可愛くても、清楚で可憐という言葉が相応しくても、彼は男だ!

 子供を生むことが出来ない!」


「そうなりますね」


これが物語の世界なら男でも出産出来るかもしれない。


しかし、この世界では無理。この世界で男性が出産した事例はない。


「だから君に子供を生んで欲しい!」


「はっ?」


それはいったいどういう意味?


「私が誰かと結婚し、第二子を設けた場合、その子をグッズー男爵家の養子にしたいということですか?」


それだと子供はグッズー男爵家の血を一滴も引いてないことになるけど、それでもいいのだろうか?


「違う! それでは子供は当家の血を引いていない! 当家の跡継ぎには出来ない!」


「そうですよね。でしたらグッズー男爵家の遠縁から養子を貰った方が良いのでないでしょうか?」


「それじゃあ、世継ぎがハリボーテ伯爵家の血縁ではなくなってしまう!

 僕はグッズー男爵家とハリボーテ伯爵家の血を引いた人間を養子にし、世継ぎとして育てたいんだ!

 両家の血を引く子供を養子にすることが、カシウスと結婚する条件なんだ!」


「はぁ、しかし、カシウスは男。子供は産めませんが……」


「分かっている!

 カシウスは君より可愛くて、優しくて、キュートで、可憐だ!

 しかし男だから子供を産めない!

 地味で不細工で粗暴で無能な君は女というだけで子供を産めるのにだ!」


喧嘩売ってんのか、この野郎。


今、世の中の全女性を敵に回したぞ。


「だから、君には僕の愛人として男爵家に来て欲しい!

 そして僕との間に子供をもうけて欲しいんだ!!」


……はっ? 何言ってんだこいつ??


ゲッス様の脳みそには、うじでもわいてるんだろうか?


「子育ては僕とカシウスでするから、君は領地経営でもしていてくれ!

 無能な君にもわかるように、両親が仕事のやり方を指導してくれるから!」


要するに楽しいところは自分たちでやるから、雑用はお前がやれといいたいのね。


冗談じゃない。


愛人になって子供だけ生んで、面倒な仕事は全部お前がやれなんて言うクソ野郎の提案など誰が飲むか!


「そのお話は了承しかねます」


「婚約破棄」ではなく「解消」と言っただけ、ゲッス様はマシと言った言葉を取り消す。


こいつが過去婚約していた人間の中で、一番最低だ!


「なぜ断るんだ!?

 行き遅れの君を愛人としてだが貰ってやると言ってるんだ!」


逆になんでこんな非常識な提案を私が受けると思ってるんだこいつは?


こいつの頭の中には、脳みその代わりにぬいぐるみのように綿でも詰まっているのか??


「なんと、言われても受けるつもりはありません。それではさようなら」


私はカーテシーをして、踵を返した。


「待ってくれ!!」


ゲッス様に左腕を掴まれた。


キモい! 離せ!


「離してください!」


「この話は、既に君の両親の許可も取ってある!

 君の一存で断るなんて不可能だ!」


「はっ?」


思わず不機嫌な声が漏れてしまった。


「伯爵と伯爵夫人は、

『長男アニージョの嫁が四人目を生む。子供部屋が必要だ。行き遅れの娘がいつまでも家に残っていると体裁も悪いし、金もかかる。愛人でも何でもいいから引き取ってくれ。アメリーの使っていた部屋は孫の部屋にする』

 と言っていたよ」


ふざけんな! 誰のせいで行き遅れたと思っている!


あんたらが甘やかして育てた脳みそお花畑の妹達が、私の婚約者を奪っていったからだろうが!!


「それからこうも言っていたな。

『愛人とはいえ、見目の良くないお前を貰ってくれるんだ。有り難く思え。その上弟と家の役に立てるんだ、こんなに幸せなことはないだろう』

 とね」


「……!」


「僕も本当は君みたいなブスの子供ではなく、君の妹達のような美人の子供を養子にしたかったけど、彼女達は男爵家より格上の家に嫁いでしまって手がだせない。

 仕方ない、君で我慢してあげるよ。

 隔世遺伝で美形の子供が生まれる事があるかもしれな……ひょごぉおおおおっっ!!」


ゲッス様が最後まで話し終える前に、私の右ストレートが彼の左頬に直撃していた。


彼は空中で三回転半して地面に落ちた。


「申し訳ありません。

 そのお話はうけかねますので、他を当たってください」


私はもう二、三発殴りたいのを我慢してその場を後にした。


行き遅れだからと馬鹿にするにも程がある!


誰がお前のようなゲスの子供なんか生むものか!!




◇◇◇◇◇◇◇


読んで下さりありがとうございます。

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