第12話「君がいないと困るんだ!」ゲッス視点
「アメリーを愛人として迎え子供を産ませ、彼女に男爵家の仕事を覚えさせる……それがカシウスと結婚する為の条件だった筈だ」
「この結婚はハリボーテ伯爵家とグッズー男爵家を繋ぐもの。
子供は両家の血を引いていなければなりません。
前にもそう言ったはずですよ」
アメリーに殴られた頬に湿布を貼り、両親に彼女に愛人になってくれと言ったら殴られた事を説明した。
返ってきたのは両親からの冷たい言葉だった。
「ハリボーテ伯爵家には未婚の女性はアメリーしか残っていないんだ。
カシウスと結婚したいなら、首に縄をつけてでも、アメリーを家に連れてきなさい」
「アメリーを愛人にできないなら、カシウスとの結婚は許しません。
男爵家は次男のカッスに継がせます」
「そんな! カッスはまだ学生ですよ!」
「あと数年でカッスも学園を卒業する。
それまでに奴の当主教育を済ませればいいだけだ」
「カッスに当主の座を奪われたくなければ、さっさとアメリーを連れて来い。
それができないなら、家を継ぐことを諦め、カシウスと駆け落ちでもしなさい」
両親はどこまでも冷たかった。
貧乏でも金持ちでもない男爵家の嫡男に生まれ、自分で言うのもなんだがそこそこハンサムな僕は、黙っていれば綺麗なお嫁さんも、当主の座も入って来て当然だと思っていた。
しかし男爵家というのは魅力がないのか、学園を卒業してもなかなか婚約者が見つからなかった。
そこに格上のハリボーテ伯爵家の長女との縁談が舞い込んできた。
ハリボーテ伯爵家の令嬢達は金髪碧眼の美人揃いだと噂だ。
ようやく僕にも運が巡ってきた!
うきうきしながらハリボーテ伯爵家に、顔合わせの為に向かった。
そして婚約者の顔を見て俺は酷くがっかりした。
僕の婚約者は美人と評判の妹達ではなく、不細工で地味な長女だったからだ。
茶色の髪に黒い瞳、髪はボサボサ、肌はカサカサ……なんだってこんな女が僕の婚約者なんだ?
期待していた分、裏切られた時のダメージは大きかった。
アメリーの歳は僕より二歳も上、その上彼女は今までに三人に婚約破棄されていた。
なるほど、それで男爵家の嫡男の僕に婚約の話が舞い込んできた訳か。
伯爵家の長女なら、侯爵家や伯爵家の嫁の座が狙える立場だ。
そういう事情がなければ、男爵家の嫡男の僕と婚約しないよな。
彼女がお手洗いの為に席を外した時、それとなく伯爵家のメイド達に、彼女が婚約破棄された理由を尋ねてみた。
彼女は美人な妹達に嫉妬し、妹達を虐めていたらしい。
それが当時の婚約者にバレて婚約を破棄されたそうだ。
彼女の元婚約者達は、美人な妹達と結婚したそうだ。
今アメリーは、婚約破棄されたうさを、義姉や甥っ子をいじめる事で発散しているとか……。
彼女の元婚約者達が羨ましい。
性悪なアバズレ女を捨てて、若くて美人で優しくて優秀な妹と結婚出来たのだから。
美人な妹が後一人ぐらい残っていないかなと期待したが、アメリーの妹達は全員嫁いだあとだった。
絶望しかない。
僕の婚約者は冴えない上に、根性の悪い年上のアバズレなのか……。
そんな僕を救ってくれたのが、伯爵家の次男のカシウスだった。
初めて彼を見た時、男装した女子にしか見えなかった。
カシウスは華奢な体、金色のサラサラの髪、白磁のようにきめ細やかな肌、目鼻立ちの整った顔をしていた。
僕は男でも構わない! 彼と結婚したい! そう強く思った。
僕はカシウスを口説き落とした。
その結果、僕の思いが通じカシウスと両思いになった。
後はアメリーに婚約破棄を言い渡し、彼と結婚するだけだ。
しかし、一つ問題がある。
カシウスは男だ。
いくら美人でも、可憐でも、キュートでも、男は子供を産めない。
結婚は家と家との結びつきだ。
グッズー男爵家とハリボーテ伯爵家の血を引いた子供でないと、男爵家の跡継ぎとして認められない。
その事を僕の両親とカシウスの両親に相談すると、あっさりと問題は解決した。
アメリーを僕の愛人にして、彼女に跡継ぎを産ませればいいんだ。
結婚はカシウスとする。
子供はアメリーが産む。
子育ては僕とカシウスがする。
子供を生んで暇になったアメリーを、男爵家にタダで置いとくのももったいないので、彼女に領地経営を覚えさせ、仕事は彼女にさせる。
アメリーは学園を卒業後、家族虐めしかしていなかったらしいから、領地経営の「リョ」の字も知らない。
しかし、彼女の学生時代の成績は良かったらしい。
なら彼女に領地経営を教えれば、少しは使い物になるだろう。
彼女が領地経営をしてくれれば、僕はカシウスと愛を育む時間が取れる。
完璧な計画だ!
こんなに簡単に問題が解決するなら、一人で悩まずに、早急に相談しておけば良かった!
アメリーにはできれば、カシウスにそっくりの金色の髪に青い目の美少年を産んで貰いたい。
隔世遺伝で祖母似の子供が生まれることもあるだろう。
アメリー似の子供、特に跡継ぎになれない女の子が生まれた場合は、適当な家に養女に出してしまおう。
貴族の養女にするのは難しいだろうが、貴族との繋がりがほしい商家なら、喜んで養女にしてくれるだろう。
僕が幸せにしたいのは、カシウスと彼にそっくりの男の子だけなのだから。
アメリーと彼女似の子供がどうなろうと、興味も関心もない。
アメリーとのお茶会の日、ハリボーテ伯爵家のガゼボて、彼女にカシウスと結婚したいから婚約を解消してほしいことと、愛人になって子供を産んで、男爵家の領地経営をしてほしいことを伝えた。
アメリーは婚約解消は了承してくれたが、愛人になることは了承してくれず、ぐーで殴られた。
殴られた僕はふっ飛ばされ、無様に地面を転がる事になった。
そしてそのことを両親に伝えると、冒頭のことを言われた。
行き遅れで、阿婆擦れで、性根の腐ったろくでなしの穀潰しのくせに、僕の愛人になることを断るなんてとんでもない女だ。
彼女に子供を産んでもらわないと困るのも事実。
何としても彼女を説得しなければ。
ハリボーテ伯爵に彼女の行方を聞いたら、彼女は伯爵と喧嘩して家を出てそのまま帰ってこないらしい。
町を野良犬のようにさまよった後、行くところがなくて家に帰ってきたところを、保護してあれば少しは僕に恩を感じるだろう。
だが食べるものに困って体を売るようだと困る。
さすがに外で体を売っているような女を愛人にはできない。
それだとカシウスと結婚できない!
それは困る!
僕とカシウスの幸せのためにも、一刻も早くアメリを見つけ出し保護しなければ!
この時の僕は彼女がベルフォート公爵家に保護されていて、彼女が公爵令息によって美しく磨かれていたことなど知る由もない。
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