第11話「初恋の人との結婚」エリオット視点



――エリオット視点――




俺の名前はエリオット。


国内きっての名門貴族ベルフォート公爵家の嫡男として生まれた。


俺は自分で言うのも何だが、幼少の頃から美しかった。


姉とは年が離れていることもあり、公爵家の跡継ぎの俺は、周りからちやほやちやほやちやほやちやほやちやほやちやほやちやほやちやほやされまくって蝶よ花よと育てられた。


そんな俺は十歳を過ぎた頃には、手のつけられない悪ガキに育った。


カエルや毛虫を他人の服に仕込むなんて朝飯前。


洗濯を終えたばかりのシーツにインクをかけたり、物陰に隠れてお菓子を運んでるメイドを驚かせたり、やりたい放題だった。


その日も俺は、物陰に潜みお菓子を運んでるメイドを驚かせた。


メイドは驚いたはずみでカートをひっくり返し、お菓子は床に落ちてボロボロになり、皿は砕け散り、ティーポットに入っていたお茶が辺りに飛び散った。


いたずらに成功して俺は、とても愉快な気持ちだった。


「バーカ! マヌケー!」


メイドを指さして笑っていると「この悪ガキ!」と言う声と共に、不意に頭に衝撃を受けた。


俺は何が起きたのか分からず、頭を押さえ呆然としていた。


痛みがじわじわと広がって、頭を叩かれたんだと気づいて、怒りと悔しさと痛みで俺は泣きそうになった。


「何すんだよ……!

 この僕を殴ってただで済むと思っているのか!?

 僕は国内屈指の名門貴族ベルフォート公爵家の嫡男だぞ!」


僕を殴った相手をキッと睨みつけた。


そいつは姉上と同じ制服を着ていた。恐らく姉上の友人だろう。


その後には姉上の友人と思われる女とメイドだけで、姉上はいなかった。


茶色の髪を三編みにし、黒い目をした冴えない女だった。


こんな冴えない女が姉上の友人?


姉上がこの女を我が家に招待したのか?


姉上の友人だとて容赦するものか!


この僕を殴った事を後悔させてやる!!


「僕は偉いんだぞ! すごいんだぞ!」


「そんな事はどうでもいいわ!

 あなたが誰であろうと関係ない!

 あなたは何の罪もない女の子を意味もなく脅かして怪我をさせた!

 そして謝るどころか『バカ、マヌケ』と言って罵った!

 それだけであなたに鉄槌を加える理由として十分よ!」


三編みの女は、そう言って俺を睨みつけてきた。


彼女に言われて俺はやっと気がついた。


メイドが壊れたティーカップの破片で怪我をしたことに。


メイドは手から血を流していた。


メイドは真っ青な顔で呆然と床に座り込んでいた。


俺は怪我をさせるつもりなんかなかった。


ただちょっとメイドを驚かせるつもりだった。


俺の胸に罪悪感が湧いてきた。


俺がおろおろしている間に、その女はメイドに駆け寄っていた。


「大丈夫?

 怪我は痛くない?

 もしかしたら火傷をしているかもしれないわ」


女はポケットからハンカチを取り出しメイドの手を縛った。


そして彼女をお姫様抱っこした。


「医務室はどこ? 案内して!」


そこにメイド長と姉上がやってきた。


女は姉上から医務室の場所を聞き、そちらに向かって歩いて行った。


姉上もその女とメイドに付き添って行った。


メイド長は他のメイドを呼んで、割れた食器などを片付けさせていた。


俺はその光景を呆然と眺めていた。


メイド長からは「お坊ちゃまお怪我はありませんでしたか? 後は私どもで片付けをしておきますので、坊ちゃまはお部屋にお戻りください」と言われた。


姉上もメイド長も俺のことを叱らなかった。


その日の夜、父上や母上が戻ってきた。


おそらく父上も母上も、使用人から今日あった事を聞いてるはずだ。


俺は両親から叱られることを覚悟していた。


さすがに今日のおふざけは度が過ぎていた。


だが予想に反して、俺は両親から叱られることはなかった。


いたずらをしても叱られない。


それはいつものことだった。


いつもの事だったのに、何故か俺の心はもやもやしていた。


食事の後、俺は姉上の部屋に行った。


昼間俺を叱った三編みの女が誰なのか知りたかったからだ。


姉上はなかなか彼女の名前を教えてくれなかった。


姉上は、俺が彼女に仕返しすると思っていたらしい。


何時間も説得して、姉上の口からようやく彼女の名前を聞き出すことに成功した。


昼間俺の頭を叩いたのは、ハリボーテ伯爵家の長女アメリー様だとわかった。


「姉上……もしかして、今まで僕が驚かせた人の中に……今日みたいに怪我をした人がいたのですか?」


俺は恐る恐る聞いてみた。


姉上は一度目を伏せ、ゆっくりと話し始めた。


「怪我をした人はいなかったわ。

 でも……カエルを服に入れられた兵士はその後カエル嫌いになったの。

 彼はカエルを見ると体中にイボができる体質になってしまったわ。

 それと、毛虫を服に入れられた料理人はその後病院に行ったわ。

 毛虫の毛には毒があるから、毛虫の毛のついた服はもう着れないの。

 だから彼がその時着ていた服は燃やしてしまうしかなかったの。

 彼がその時着ていた服は、田舎のお母様の手作りだったそうよ……。

 彼はその服を着ることで、田舎のお母さんに励まされると思って頑張っていたの」


そんな事になっていたなんて知らなかった。


俺はほんのちょっと人が驚く顔が見たかった。


ほんの遊びのつもりだった。


それがこんなことになっていたなんて。


「ほ、他には何かあった?」


本当は聞きたくない。


事実を知るのが怖い。


だけど俺は知らなくてはいけない。


自分が何をしてきたのか。


その結果どれだけの人に迷惑をかけたのかを。


姉上は言いにくそうにしていた。


「相手に罰を与えたりしないし、

 ショックで自暴自棄になったりしないから教えて!」


「分かったわ。

 あなたがそこまで言うなら話すわね。

 実は……」


姉上の話を聞いて俺は衝撃を受けた。


何カ月か前に、俺が驚かせたことでティーカップを割ってしまったメイドがいる。


そのメイドは後日、当家を解雇されていた。


メイドが割ったのは、母上のお気に入りのティーカップだった。


それでそのメイドは、母上の怒りに触れ解雇されたらしい。


「どうしてメイドが解雇されるの?

 メイドを驚かせたのは俺なのに?!」


俺が驚かせたことで、母上のティーカップを割ってしまったメイドがいたかもしれない。


俺はぼんやりと思い出した。


俺にとってはその程度のことだった。


だけど解雇されたメイドにとっては、一生ものの心の傷になるだろう。


母親はなぜ俺を怒らなかったんだろう?


なぜ被害者であるメイドの方に辛く当たったのだろう?


俺は姉上に疑問をぶつけてみた。


「父上も母上もあなたをとても可愛がっているわ。

 だから二人共あなたを叱れなかったのよ。

 父上と母上はあなたを叱ることで、あなたに嫌われるのを恐れていたから。

 だからあなたを叱らなかった。

 だけどお気に入りのティーカップを失ったショックは消えなくて……。

 母上は怒りの矛先をカップを壊したメイドに向けたのね……」


「そんなのおかしいよ! ティーカップが割れた原因は俺なのに!

 何で俺を叱らなかったんだよ!」


姉上に言ってもどうにもならないことはわかってる。


メイドが首になる原因を作ったのは俺だ。


俺は……イタズラの被害にあった人達のその後を、一切考えたことがなかった。


「父上も、母上も、もちろん私も、あなたの事をとても大切に思っているわ。

 だから……あなたを叱ることで、あなたに嫌われるのを恐れ、何も言えなかったの。

 ごめんなさい。

 本来はあなたを注意する立場の人間なのに何もできなくて……」


「そんな、そんなのって……」


「本当の愛情じゃない」と思ったけど、言葉にできなかった。


アメリー様に叱られる前に、家族に叱られていたら、俺はそれを愛情だと気づけただろうか?


「叱られたことに反発して、家族を嫌いにならなかったか?」と聞かれたら、答えに困るだろう。


このままずっと叱られないで大人になっていたら、俺はきっと他人の痛みの分からない、傲慢でわがままで冷徹な人間になっていただろう。


アメリー様は俺にその事に気づかせてくれたんだ。


彼女だけが俺のことを本気で叱ってくれた。


伯爵令嬢である彼女が、公爵令息である俺を、厳しく叱ることは、きっと勇気が要ったことだろう。


それでも彼女は俺の間違いを指摘してくれた。


本当に彼女は勇気があって素敵な人だ。


「姉上、これからは俺が間違った事をしたら叱ってください。

 俺はそんな事で家族を嫌いになったりしませんから」


その日を境に、俺はいたずらを止めた


姉上に伝えたのと同じ言葉を、父上と母上にも伝えた。


父上には、以前俺のせいで解雇されたメイドの再就職先の斡旋をして貰った。


それから、今回俺のせいで怪我をしたメイドをしっかりと治療して欲しいと伝えた。


もちろん彼女のことも首にしないで、とお願いした。


そして、俺は過去にいたずらした全ての人を訪ね、誠心誠意謝罪した。


治療費とか、慰謝料とか、そういうのもきっちり支払った。


ご迷惑をかけた人に謝りに行くのは、ちょっと勇気がいるけど、でも頑張った。


今度姉上がアメリー様を家に招待した時、俺が心を入れ替えて被害者に謝罪したことを、彼女の目を見て伝えたいから。


俺はアメリー様のように、思いやりがあって他人にも意見できる強い人間になりたい。


アメリー様が次に家に遊びに来た時は、あの時の事を謝罪したい。







それからも、姉上はアメリー様を何度か家に連れてきた。


だけど俺は……アメリー様を前にすると照れてしまって、中々思いを伝えられなかった。


いたずらしたことを「ごめんなさい」と謝ることもできなかった。


他の人達にはちゃんと謝ることもできたのに、アメリー様を前にすると……顔に熱が集まって、心臓がドキドキして……うまく言葉が出てこない。


そうしている間に、姉上とアメリー様も学園を卒業してしまった。


二人は前ほど交流することがなくなったのか、アメリー様が家に来る事はなくなってしまった。


アメリー様が家に来なくなって、俺はとても落胆していた。


こんなことならちゃんと謝罪しておけばよかった。


俺は胸にぽっかりと穴が開いた気分だった。


そしてため息をつくことが増えた。


そんなある日、アメリー様が侯爵家の嫡男と婚約したことを知った。


その時の衝撃は忘れられない。


その時になって俺は初めて、アメリー様への恋心を自覚した。


彼女は目を見ると何も話せなくなったのも、胸がドキドキしたのも、顔に熱が集まったのも……全部恋だったんだ。


俺はアメリー様のことが好きだったんだ。


初恋だと気づいた時には、相手は他の男のものになっているなんて……人生は残酷だ。


もしかしたらこれは罰なのかもしれない。


俺がいたずら半分に人を傷つけてきたから、こんな罰がくだったんだ。


俺はこの後しばらく、失恋の痛みから何も手につかなかった。









失恋の痛みにもがき苦しむこと一年……。


風の噂でアメリー様が婚約を破棄されたと知った。


なんでも彼女の元婚約者のメンクーイ侯爵は、彼女のひとつ下の妹のヘレナという女に懸想して、婚約者をチェンジしたらしい。


最低な男だ。


顔だけで婚約者を決めるなんて名前の通り面食いらしい。


アメリー様の魅力に気づかず妹を選ぶなんて、とんだ間抜けだ。


俺は父上にアメリー様と婚約できるようにお願いした。


両親は俺のお願いに弱い。


最初は父上も母親も家格が釣り合わないとか、歳が離れてるとか言って渋っていた。


だけど俺は根気強く両親を説得した。


そしてようやく両親の説得に成功した。


だけどその時には、もうアメリー様には別の婚約者が出来ていた。


こんなことになるなら彼女の手を握って、駆け落ちしてしまえばよかった。


それか当家で囲い込んどけばよかった。








今度こそ終わりだ〜〜! アメリー様がいない人生なんて考えられない!


と絶望に打ちひしがれること一年……アメリー様がまた婚約破棄された。


彼女の二番目の婚約者のフシアナ伯爵は、アメリー様との婚約を破棄し、彼女の二つ下の妹のクラリッサと婚約したらしい。


フシアナ伯爵はアホだ。名前通り彼の目は節穴だ。


アメリー様の魅力がわからないなんて。


今度こそアメリー様と婚約しよう! そう思っていたのに……彼女にはまた別の婚約者ができていた。






……まぁそんな感じの事を繰り返し、当家が婚約を打診した時には、アメリー様には既に別の婚約者ができていた。


グッズー男爵家のゲッスと婚約したと聞いた時、さすがに今度こそはもう無理だろうと落胆していた。


しかし昨日、思いがけずアメリー様と再会した。


彼女との再会は本当に偶然で、俺の乗った馬車が彼女に泥をかけてしまったことだった。


泥をかけてしまった相手がアメリー様だと知って俺は緊張した。


もしかしたらひどく罵倒されるかと身構えた。


だが彼女はそんなに怒っていなかった。


俺の中で、彼女の服を汚してしまってすまないという気持ちと、御者よくやった! という気持ちが入り混じっていた。


だってこんな偶然でもなければ、彼女と再会できなかった。


再会したアメリー様は、学生時代に当家を訪れていた時に比べ、少し疲れているように見えた。


でもあの頃と変わらない、綺麗な黒真珠色の瞳をしていた。


彼女の前に立って気づいた。


いつの間にか、俺は彼女の身長を追い越していたことに。


あの頃は俺が見上げていたのに、今は彼女に見上げられている。


彼女の黒真珠のような瞳に見上げられた瞬間、俺の胸は高鳴った。


好きな人に上目使いで見られるのは想像していた以上にドキドキした!


身長が伸びて本当に良かったと思った!


彼女を抱きしめてキスしたかったけど、今は恋人でも婚約者でもないので、我慢した。


あーそういえば、彼女には婚約者がいるんだ。


でも婚約者がいるのに、なぜ彼女はこんなに疲れた顔をしているのだろう?


雨の中を傘もささずぶ濡れで歩いているんだろう?


彼女に何かあったのかもしれない。


俺は濡れた服を弁償したいとかなんとかうまくいって、彼女を家に誘った。


彼女は最初渋っていたが最後には了承してくれた。


両親のいない家に好きな人を招いてしまった!


いや使用人がたくさんいるから二人きりではないんだけど……それでもやはりドキドキした。


彼女をエスコートして馬車に乗せた。


エスコートする時に握った彼女の手は細く華奢だった。


彼女の手は少し荒れてるようだ。


クリームをたくさんつけて手入れしてあげたい。


好きな人と馬車の中で二人きりになることができるなんて、夢のようだ!


思い焦がれていた人と二人きりになれて、つい距離が近くなってしまった。


もう好きな人の前で目を合わせられない、言葉も出せない、幼かった時の俺ではないのだ。


彼女は俺とから距離を取ることはなかった。


もしかして彼女も俺のことを好きなんだろうか?


いや、そう考えるのは早計だ。


彼女は俺を弟のようにしか思ってないのかもしれない。


だから距離感がバグっていても咎めないのかもしれない。


それに今彼女には婚約者がいる。


あ〜〜彼女の婚約者を殺したいな……。


そうすれば彼女と結婚できるのになぁ……。


どす黒い思いが俺の心の中に広がっていく。


一度、冷静になろう。


正攻法を使って、彼女と相手の男との婚約を破棄させる方法もあるはずだ。


もう待ってるだけなんて嫌だ。


他の男と婚約した彼女が、婚約を破棄されるのを願ってるだけの生活なんて嫌だ。


自分から行動したい。


なんとしてでも彼女を俺のものにしたい……!


彼女と再会したことで、彼女への恋心が爆発していた。









彼女を自宅に招待し、お風呂に入れ、エステを受けさせ、ドレスをプレゼントした。


思いがけず彼女のバスローブ姿を目にしてしまった時は、心臓が口から飛び出すかと思った。


刺激が強すぎて、彼女を直視することができなかった。


好きな人のバスローブ姿は、思春期の俺には刺激が強すぎる。


落ち着こう、彼女は他の男と婚約中だ。


冷静になれ、自分。


バスローブ姿のアメリー様を前に、俺は自分の欲望と戦っていた。


アメリー様に早くドレスを着てもらおう。


俺の欲望が暴走する前に……!










アメリー様は何を着せても似合うから、たくさんドレスを着せてしまった。


着飾ったアメリー様はとても美々しかった。


アメリー様はそのままでも美しいが、着飾るとさらに美しい。


いや美しいなんて言葉では収まらない、神々しいという言葉こそ彼女に相応しい!


妖精や精霊すら、着飾った時の彼女のきらびやかさには叶わないだろう。


アメリー様が俺の瞳の色の紫のドレスをまとっているのを見たとき、俺は天にも登る気持ちだった。


アメリー様には一生俺の瞳の色の服だけを着ていてほしい。


俺の色に染まっていてほしい。


「好きだ!」という言葉が喉の奥まで出かかっていた。


アメリー様に再会したことで、彼女の思いがどんどん強くなっていった。


まだだめだ! 


俺が告白する時は彼女の外堀を全部埋めてからだ。










ドレスを買った後、彼女とテラスでお茶会をした。


彼女は何を着ても似合うから、商人が持ってきたドレスも、靴下も、小物もアクセサリーも、全部買ってしまった。


彼女とお茶を飲むのはこれが初めてだ。


紅茶をすするアメリー様もキュートだな。


スコーンを美味しそうに食べる彼女も可憐だな。


俺は目の前の彼女に終始見とれていた。


でも彼女には婚約者がいるんだよな……。


確か彼女の現在の婚約者は、男爵家の嫡男のゲッス・グッズー。


奴が彼女を独占しているのか……。


ゲッスには、今すぐ不慮の事故に遭って死んで貰いたいなぁ。


それとも男爵家に横領の濡れ衣を着せて、潰しちゃおうかな?


俺の中に黒い感情が広がっていく。








だが俺が手を動かさなくても、彼女とゲッスの婚約はすでに破棄されていた。


アメリー様はゲッスに婚約破棄を言い渡され、家から勘当されたという。


これは神様が与えてくださった千載一遇のチャンスだ!!


絶対にものにしなければ!!!!


俺は彼女がお茶を楽しんでいる間に、公爵家の顧問弁護士を呼びつけ、

アメリー様とゲッスの正式な婚約破棄の書類と、

アメリー様を実家の伯爵家から除籍しテダスケ侯爵家の養女にし、

その上で俺と婚姻する書類を全て用意させた!


弁護士が書類を作成してる間に当家が特別に育てた高速伝書鳩を使い、

王都近郊の別荘で療養している両親と連絡を取り、

アメリー様との結婚の許可を貰った。


そして全てが整った後、アメリー様に書類を見せ、書類にサインを貰った。


アメリー様は書類を入念にチェックしていたが、

書類の隅に小さく書かれた文字を枠線か模様だと思ったようで、

そこに書かれているのが文字で、とても重要なことが書かれていることには最後まで気づかなかったようだ。


騙すような事をしてごめんなさない、アメリー様。


ですが俺は絶対にあなたを手放したくないんです!









アメリー様が一つ屋根の下にいる。


しかも書類上はもう俺の……妻。


そう考えたら興奮して、その日はなかなか寝付けなかった。









翌日、俺と結婚していたことに気がついたアメリー様に事情の説明を求められた。


それにしても寝起きのアメリー様も美しい。


今すぐ抱きしめたい!


キスしたい!


彼女を「若奥様」と呼ぶとか、うちの使用人はわかってる!


俺のツボを心得ている!


アメリー様が俺の妻!


若奥様!


最高だ!


そんな気持ちをなんとか落ち着かせ、彼女に食事を勧めた。


愛する人が空腹でいるのは耐えられない!


それにしてもアメリー様はお腹の音までキュートだ!








食事の後、彼女に説明を求められた。


俺は数々の親戚を虜にしてきた、必殺泣き落としを使った。


この技を使って相手を上目遣いで見つめ、要求が通らなかった事は一度もない。


ピッチピチの十代だからこそできる特技だ。


アメリー様にも泣き落としが通じ、婚姻関係を続けて貰える事になった。


この時ばかりは、女顔の美形に生んでくれた事を両親に感謝した。


アメリー様を説得する為に、学園が全寮制になったとか、寮でセクハラされてたとか、学園を休学してるとか、結婚すると自宅から通えるとか、ちょっとだけ嘘をついた。


アメリー様は俺の嘘を全て信じてくれた。


彼女は俺の境遇に同情して、俺が学園を卒業するまでの三年間、婚姻関係を続けると約束してくれた。


三食昼寝とおやつとエステとドレスとふかふかのベッドとメイド付きの生活は、お約束します。


もちろん寝室は別々です。


ですが、三年後あなたを解放してあげるつもりは毛頭ありません。


三年以内にアメリー様を俺に惚れさせて、婚姻関係を継続させる!!


それが無理なら泣き落としてでも、土下座してでも彼女を繋ぎ止める!!


ようやく手に入れた初恋の人を、絶対に手放してなんかやるものか!


アメリー様、俺が絶対に絶対に幸せにしてあげますからね。


覚悟しておいてくださいね。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




彼女とお揃いの指輪の結婚指輪をつけて学園に行く。


友人達に、

「えっ、お前その指輪どうした!?」

「結婚したのか!?」

「エリオットが結婚! 相手は誰だ!?」

と聞かれちょっとした騒ぎになった。


なので、初恋の人とゴールインしたと伝えた。


俺が初恋を拗らせて病んでる事を知っていた友人達は、結婚を祝福してくれた。



◇◇◇◇◇◇◇


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