第10話「永遠の輝き」



「アメリー様、これをお受け取りください」


エリオット君はおもむろに跪くと、ポケットからベルベットの赤い小箱を取り出した。


中には瞳の大きさほどの、燦然と輝く宝石のついた指輪が入っていた。


透明に輝くこの石の名前を私は知っている。


確かダイヤモンドだ。


今まで我が国では、アクセサリーといえば、テーブルカットのエメラルドが主流だった。


しかし最近になってブリリアントカットという、ダイヤモンドを美しく見せるカッティング技術が開発され、婚約指輪にダイヤモンドを使う人が増えてきたのだ。


私がなぜこんな事を知っているのかというと、末の妹の婚約指輪がダイヤモンドだったからだ。


「美しいでしょう?

 この宝石はダイヤモンドと言ってとっても高いのよ。

 お姉様には婚約指輪なんて一生縁がないでしょうけど」


と言って妹が自慢気に指輪を見せてきた。


最も妹の指輪に付いていたダイヤモンドは、爪の先ほどの大きさだったので、エリオット君がくれたものとは比べ物にならないが。


「順序が逆になってしまいましたが、婚約指輪です」


彼は私の左手を取り、左手の薬指に嵌めた。


四度も婚約したのに、誰からも婚約指輪すら貰ったことがないことに、今頃気づいた。


今までの婚約者は最初から、私との結婚には乗り気では無かったのかもしれない。


「いやいやいや、こ、こんな高価なもの貰えないよ!」


私はエリオット君の仮初めの結婚相手に過ぎないのだから。


「そう言わず受け取ってください。

 その指輪を付けるのはパーティーや、外出時や、来客対応の時だけで構いませんから」


確か婚約指輪は豪華な宝石が付いていて、日常生活の妨げになるので、普段遣いはしないんだったかな?


形だけとはいえ公爵令息夫人として振る舞うには、これぐらい豪華な指輪を身に着けていないと相手に舐められるから付けろって意味かな?。


「普段はこちらをお使いください。俺とお揃いの結婚指輪です」


エリオット君は、ポケットからまた別の小箱を取り出した。


中には銀色に輝くシンプルなデザインのペアリングが入っていた。


確か結婚指輪はシンプルなデザインの物を、夫婦で揃って付けたはず。


「一つはアメリー様に」


彼は私の指から宝石のついた婚約指輪を外すと、元の箱にしまった。


そしてシンプルなデザインの結婚指輪を箱から取り出し、私の左手の薬指に嵌めた。


「もう一つは俺の指に、アメリー様付けて頂いてもよろしいですか?」


「うん」 


エリオット君が立ち上がった。


今度は私が長身の彼を見上げる事になった。


あどけない顔をしてるけど、背だけはすくすくと伸びたようだ。


私はペアリングのもう片方を箱から取り出し、エリオット君の左手の薬指に嵌めた。


ペアリングか……何だかこうしてると、本当に結婚したみたい。


いや、書面の上ではもう結婚してるんだった。


「いつか式も挙げたいですね。

 アメリー様の花嫁姿はとても素敵でしょう」


そう言ってエリオット君が頬を赤らめた。


この部屋熱いのかな?


「それはどうかな……」


四度目に婚約破棄されたとき、花嫁衣装なんて一生着ることはないと思った。


おそらくその予想は当たっているだろう。


「そもそもこれは仮初めの結婚だし、挙式とか必要なの?」


彼にとっては、家から学園に通うために結婚してる事実が必要だっただけ。


私には住むところと、仕事が必要だっただけ。


お互いの需要と供給が一致した結果の契約結婚。


そこに愛はないのだから、式を挙げても虚しいだけだ。


エリオット君は学園を卒業後、私と離婚する。


もしくは白い結婚だと訴えて、結婚自体は無効にしてもいい。


そして公爵家の跡取りの嫁に相応しい令嬢を見つけその人と結婚する。


彼が私と挙式を挙げる必要性を感じない。


むしろ彼はこの結婚を、先生などの関係者以外には秘密にしておきたいんじゃあないのかな?


「今はまだ、でもいずれ必要になるかもしれません」


そう言って、はにかむエリオット君はとても可愛らしい顔をしていた。


きっと三年後、彼の隣には若くて清楚で可憐な令嬢が立っているのだろう。


お役御免となった私はこの家と縁を切られ、彼に二度と会うことは叶わないんだろうな。


……な〜〜んか、もやもやするなぁ。


朝食の食べすぎかな?


この家で生活してる間に太らないように体調管理には気をつけなくちゃ。


厚かましいお願いだけど、離縁する時には私が露頭に迷わないように、家と家付きの仕事を探してほしいな。


その件についておいおいエリオット君に相談しよう。










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